雇用・請負・準委任の違いとは?役務提供契約の種類と労働者性の判定ポイント

役務提供契約の基礎:雇用契約と業務委託契約の区分

あらゆる「役務(サービス)の提供」に関する契約を理解するための第一歩として、雇用契約業務委託契約という二つの大きな枠組みを明確に区別することが重要です。この区別は、適用される法律や、契約当事者の権利義務に根本的な違いをもたらします。

雇用契約とは:指揮命令下の労働

雇用契約は、民法第623条に定められており、労働者が雇用主(使用者)の指揮命令のもとで労働を提供し、雇用主がその対価として賃金を支払うことを約束する契約です。この契約形態は、正社員、パート、アルバイトなど、企業に所属する一般的な働き方に該当します。

雇用契約の主な特徴は以下の通りです。

  • 指揮命令権の存在: 使用者に指揮命令権があり、業務の進め方、方法、勤務時間、休日、勤務場所、業務内容に至るまで具体的に指示できます。労働者は原則としてこの指示に従う義務があります。
  • 労働法の全面適用: 労働基準法、労働契約法、最低賃金法など、日本の労働関連法規が全面的に適用されます。これにより、労働時間の上限、休憩、休日、有給休暇の付与、解雇規制、残業代の支払い義務などが法的に保障されます。
  • 社会保険・労働保険の適用: 雇用主は、原則として労働者を社会保険(健康保険、厚生年金)に加入させ、労働保険(雇用保険、労災保険)の費用を負担する義務があります。
  • 使用者責任: 雇用主は、労働者の安全衛生確保義務やハラスメント防止措置を講じる義務など、労働者の保護に関する広範な責任を負います。
  • 賃金の対価: 労働そのもの(時間や日数)に対して賃金が支払われることが一般的です。

唯一の例外として「労働者派遣」という形態がありますが、これは派遣元企業と労働者の間で雇用契約が結ばれ、派遣先企業がその労働者に対して業務の指揮命令を行うという特殊な三者関係です。しかし、雇用契約および労働者派遣以外の契約類型(業務委託契約)で指揮命令が行われた場合は、後述する偽装請負(偽装フリーランス)となり、職業安定法や労働者派遣法に違反することになります。

業務委託契約とは:独立した業務遂行

業務委託契約は、特定の業務を外部の事業者や個人に委託する際に締結される契約の総称です。民法上は、主に請負契約委任契約準委任契約の3つに分類されます。雇用契約との決定的な違いは、委託先が委託者から独立した立場で業務を遂行するという点にあります。

業務委託契約の主な特徴は以下の通りです。

  • 指揮命令権の不在: 委託者は受託者に対して、業務の具体的な進め方、方法、作業場所、作業時間などについて直接的な指揮命令を行うことはできません。受託者は、契約で定められた業務内容に基づき、自身の裁量と責任で業務を遂行します。
  • 労働法の限定的適用: 業務委託契約には、原則として労働基準法などの労働法は適用されません。そのため、受託者には残業代や有給休暇の概念がなく、解雇規制もありません。
  • 社会保険・労働保険の非適用: 受託者は社会保険や労働保険の適用対象外となるため、自身で国民健康保険や国民年金に加入し、事業活動に伴うリスク(労災など)に備える必要があります。
  • 対価の性質: 「賃金」ではなく、契約に基づいた「委託料」や「報酬」が支払われます。この報酬は、業務の完了や成果物の納品、または作業時間などに応じて決定されます。
  • 事業者としての独立性: 受託者は、自己の計算と責任において事業を営む事業者としての側面が強いです。

これらの違いを理解することは、トラブルを未然に防ぎ、各契約形態のメリットを最大限に活かす上で不可欠となります。特に、フリーランスを「業務委託契約」で活用する企業にとっては、その「独立性」を損なわないよう、運用上の細心の注意が求められます。


業務委託契約の3つの類型:請負・委任・準委任の詳細

前章で述べた業務委託契約は、その内容や目的によって請負契約委任契約準委任契約の三つの主要な類型に分類されます。これらは民法に規定されており、それぞれ異なる特性を持っています。

請負契約:仕事の完成を約束する契約

請負契約は、民法第632条に規定されており、請負人がある仕事を完成させることを約し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束する契約です。

  • 契約の目的: 「仕事の完成」が最も重要な目的です。完成した成果物があることが前提となります。
    • : 住宅の建築、ソフトウェアの開発、Webサイトの制作、デザイン物の作成、原稿の執筆(成果物としての原稿の完成)など。
  • 報酬の発生: 報酬は、原則として仕事が完成し、その成果物が注文者に引き渡された時点で発生します。成果物が完成しなければ、原則として報酬は発生しません。
  • 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任): 2020年4月1日の民法改正により、「契約不適合責任」が導入されました。引き渡された成果物の種類、品質、数量が契約の内容に適合しない場合に、請負人が注文者に対して負う責任です(民法559条、562条以下)。注文者は、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除などを求めることができます。
  • 善管注意義務: 請負契約では「結果」が重視されるため、業務遂行の「過程」における善管注意義務は、委任・準委任契約ほど直接的には問題になりません。あくまで仕事の結果として契約不適合責任を負います。
  • 再委託の可否: 請負人は自らの責任において、仕事を第三者(下請け業者など)に再委託することが原則として可能です。これは、請負人の義務が「仕事の完成」という結果にあるためです。ただし、請負人が全責任を負います。
  • 中途解約の要件:
    • 注文者側からの解除: 請負人が仕事を完成しない間であれば、いつでも損害を賠償して請負契約を解除できます(民法641条)。
    • 請負人側からの解除: 注文者が破産手続開始の決定を受けた場合に解除できます(民法642条1項)。

委任契約:法律行為の委託

委任契約は、民法第643条に規定されており、委任者が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託し、受任者がこれを承諾することによって成立する契約です。

  • 契約の目的: 特定の「法律行為」の遂行を目的とします。法律行為とは、法的な効果を発生させる意思表示を伴う行為を指します。
    • : 弁護士への訴訟代理委任、不動産売買契約の代理、会社の設立手続きの代行など。
  • 報酬の発生: 民法上は無償が原則ですが(民法648条1項)、実務ではほとんどの場合、特約によって報酬が定められています。報酬は、受任者が委任された法律行為を適切に遂行したことに対して支払われ、その結果の成否は原則として問われません。
  • 契約不適合責任: 原則として発生しません。委任契約は法律行為の代行であり、成果物の完成を目的としないためです。
  • 善管注意義務: 受任者は、委任者に対して「善良な管理者の注意(善管注意義務)」をもって委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。これは、その職業や社会的・経済的地位において一般的に期待される程度の注意を払う義務です。
  • 再委託の可否: 委任者と受任者の間の信頼関係に基づいて成立するため、委任者の許諾や、やむを得ない事由がある場合を除いて、委任事務を第三者に再委託することは認められていません(民法644条の2第1項)。
  • 中途解約の要件: 委任者および受任者は、いつでも委任契約を解除できます(民法651条1項)。ただし、相手方に不利な時期に解除した場合は、相手方に生じた損害を賠償しなければならない場合があります(同条2項)。

準委任契約:事実行為の委託

準委任契約は、民法第656条に規定されており、法律行為以外の「事実行為(事務処理)」の委託を目的とする契約です。委任契約と異なり、法律行為ではない、あらゆる種類の事務処理が対象となります。

  • 契約の目的: 「事実行為(事務処理)」の遂行を目的とします。これは、法的な効果を直接伴わない業務全般を指します。
    • : セミナー講師としての講演、商品の広告宣伝業務、研究・調査業務、コンサルティング、システムエンジニアリングサービス(SES契約におけるエンジニアの稼働時間の提供)、事務作業代行など。SES契約のようにエンジニアの稼働時間に応じた報酬を支払う契約は、一般的に準委任契約に分類されます。
  • 報酬の発生: 主に「履行割合型」と「成果完成型」の2種類があります。
    • 履行割合型: 依頼された業務を行った工数(時間など)に応じて報酬が支払われる形態です。業務の遂行そのものに対して対価が発生します。
    • 成果完成型: 成果物の納品に対して報酬が支払われる形態です。請負契約と異なり、成果物の完成義務を負うわけではなく、業務遂行の過程で成果物ができた場合に報酬が発生するというニュアンスが強いです。
  • 契約不適合責任: 請負契約のような厳密な契約不適合責任は原則として発生しません。
  • 善管注意義務: 委任契約と同様に、受任者は委任者に対して「善良な管理者の注意(善管注意義務)」をもって事務を処理する義務を負います(民法656条、644条)。
  • 再委託の可否: 委任契約と同様に、原則として再委託は認められていません。
  • 中途解約の要件: 委任契約と同様に、委任者および受任者はいつでも準委任契約を解除できます(民法651条1項)。

契約類型ごとの比較と実務上の注意点

ここまで、雇用契約、請負契約、委任契約、準委任契約の各特徴を詳細に見てきました。ここで、それぞれの契約形態の主な違いを比較表で整理し、実務上で特に注意すべきポイントについて解説します。

各契約形態の比較表

項目 雇用契約 請負契約 委任契約 準委任契約
民法上の根拠 民法第623条 民法第632条 民法第643条 民法第656条(民法643条を準用)
契約の目的 指揮命令下の労働提供 仕事の完成 法律行為の遂行 事実行為(事務処理)の遂行
指揮命令権 あり(使用者から労働者へ) なし(原則) なし(原則) なし(原則)
報酬の対価 労働そのもの(時間や日数) 仕事の完成(成果物) 法律行為の遂行(結果の成否は原則問わない) 事実行為の遂行(結果の成否は原則問わない)
報酬の原則 有償(賃金) 有償(報酬) 無償(特約で有償化) 無償(特約で有償化)
契約不適合責任 なし あり(成果物に対して) 原則なし(成果物型は準用の可能性あり) 原則なし(成果物型は準用の可能性あり)
善管注意義務 なし(労務提供義務) なし(結果責任) あり あり
再委託の可否 なし(原則) 原則可(請負人の責任で) 原則不可(許諾・やむを得ない場合のみ可) 原則不可(許諾・やむを得ない場合のみ可)
労働法の適用 あり(労働基準法等) なし なし なし
社会保険・労働保険 加入義務あり なし(自己加入) なし(自己加入) なし(自己加入)
中途解約 原則、正当な理由・手続き必要 注文者は損害賠償で可、請負人は限定的 双方いつでも可(不利な時期の解除は損害賠償) 双方いつでも可(不利な時期の解除は損害賠償)
事業者としての独立性 なし あり あり あり

実務上の注意点:「偽装請負」と「労働者性」の判断

前述の比較表からもわかる通り、雇用契約と業務委託契約(請負・委任・準委任)の最も大きな違いは、「指揮命令権の有無」と「労働法の適用」にあります。実務では、請負契約も委任契約(準委任契約)も「業務委託契約」と総称されることが多く、この共通の名称が混同を生みやすい原因ともなっています。

特に注意が必要なのが、形式的には業務委託契約を締結しているにもかかわらず、その実態が雇用契約と変わらない状態、いわゆる「偽装請負(または偽装フリーランス)」です。偽装請負は違法行為であり、発覚した場合、企業は多大なリスクを負うことになります。

労働者性の判断基準

労働基準法をはじめとする労働法が適用される「労働者」であるか否かは、契約の類型(名称)に寄らず、「使用従属関係」が認められるかどうかで判断されます。この判断は、個々人の働き方の実態に即して、以下の要素を総合的に考慮して行われます。

  • 仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無: 発注者からの仕事の依頼を拒否する自由があるか。拒否できない場合、労働者性が高まります。
  • 業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無: 業務の具体的な進め方、方法、手順について、発注者から詳細な指示や命令を受けているか。裁量度が低いほど労働者性が高まります。
    • 準委任契約では善管注意義務から業務の適切性の確認は可能ですが、業務上の指示を行うと指揮命令と判断され、偽装請負のリスクが生じる点に細心の注意が必要です。
  • 勤務場所・時間についての指定・管理の有無: 勤務場所や勤務時間が発注者によって指定・管理されているか。出退勤の記録や管理が行われているか。拘束性が高いほど労働者性が高まります。
  • 労務提供の代替可能性の有無: 業務を、契約した本人ではなく、他の者(アシスタントなど)に代替させたり、再委託したりする自由があるか。「その人でないといけない」という理由が強く、代替が認められない場合、労働者性が高まります。
  • 報酬の労働対償性: 報酬が成果物の完成に関わらず、時間給や日給、月給といった形で、労働時間や日数に応じて支払われているか。報酬が労働そのものへの対価として支払われていると判断されるほど、労働者性が高まります。
  • 事業者性の有無: 業務に必要な機械、器具、材料などを自己負担しているか。報酬額が自己の裁量によって決められる余地があるか。事業者としての独立性が低い場合(例:全て発注者が用意し、報酬も定額)労働者性が高まります。
  • 専属性の程度: 他の会社や個人から仕事を受注することが制限されているか。特定の企業からの業務が主な収入源であり、兼業が事実上困難な状況にある場合、労働者性が高まります。
  • 公租公課の負担: 源泉徴収が行われているか、社会保険料が控除されているか。これらが行われている場合、労働者性が高まります。

これらの要素を総合的に判断した結果、労働者が使用者の指揮命令に従って労働していると判断される場合は、たとえ「業務委託契約」という名称であっても、法的には「雇用契約」とみなされます。

偽装請負が認定された場合のリスク

労働基準監督署の調査で「偽装請負(偽装フリーランス)」が認定された場合、企業は以下のような重大なリスクを負うことになります。

  • 割増賃金等の支払い指導: 過去に遡って、法定労働時間を超えた労働に対する割増賃金や、有給休暇分の賃金などの支払いを求められる可能性があります。
  • 社会保険・労働保険の遡及徴収: 労働者として認定された場合、社会保険(健康保険、厚生年金)や労働保険(雇用保険、労災保険)の加入義務が発生し、過去に遡って保険料の追徴が課されます。
  • 労働時間管理や健康診断等の義務: 労働者として扱われるため、労働時間の把握義務、健康診断の受診義務など、労働契約に付随する各種義務も発生します。
  • 罰則: 労働基準法や労働者派遣法などの違反により、罰則が科される可能性があります。
  • 企業の信用失墜: 偽装請負は企業のコンプライアンス意識の低さを示すものとして、社会的な信用を大きく損なう可能性があります。
他の労働法における「労働者」の判断基準

「労働者」の定義は、法律によって異なる場合があります。例えば、労働基準法では「使用従属関係」を重視しますが、労働組合法においては、労働者の範囲がより広く解釈される傾向にあります。

かつて、プロ野球選手会がストライキを実施した例が示唆するように、プロ野球選手は一人一人が個人事業主として契約しており、一般的には労働基準法上の労働者には当たらないとされています。しかし、彼らは労働組合法上の「労働者」とされ、団体交渉権や団体行動権が認められています。これは、特定の事業者に専属的に労働力を提供し、その事業者の運営方針に強く影響されるという実態があるためです。

このように、法律によって「労働者」か否かの判断基準が異なり、契約の「外形的な類型」のみで判断されるものではないという点を理解しておくことが重要です。


フリーランス保護新法がもたらす変化と企業・個人の対応

労働流動化時代における契約形態の理解と「フリーランス保護新法」の意義

昨今、働き方が多様化し、個人事業主(フリーランス)として自身の個性や特技を活かし、柔軟な時間で働く人が増えています。企業側にとっても、必要な時に必要な専門スキルを部分的に依頼できるメリットは大きく、デザイナー、ライター、コンサルタントといった専門職から、ウーバーイーツの配達員や事務作業代行に至るまで、フリーランスが活躍する業務領域は拡大の一途をたどっています。

このようなフリーランスという働き方は、働く個人にも企業にも多くのメリットをもたらしますが、その特性を正しく理解せず、適切な契約運用ができていないケースも散見されます。例えば、実態は雇用関係に近いにもかかわらず、社会保険料や雇用に関する事務工数の削減を目的として、形式的に「業務委託契約」を締結している事例や、企業が優位な立場を利用してフリーランスを過度に拘束したり、ハラスメントを行ったり、不当に報酬を減額したりするといった問題も指摘されています。

このような背景から、フリーランスが安心して働ける環境を整備するため、2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法案、以下「フリーランス保護新法」と表記)が施行されました。この法律は、企業(従業員を雇用する個人事業主を含む)がフリーランスに対して負うべき義務を明確にし、フリーランスの就業環境の整備を義務付けています。

フリーランス保護新法の対象となる「フリーランス」とは

フリーランス保護新法における「フリーランス」とは、同法上で「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」と定義されています。

これは、一般的にフリーランスと呼ばれる広範な人々の中から、この法律の保護対象となる特定の範囲を定めたものです。具体的には、以下のような特徴を持つ事業者が対象となります。

  • 従業員を使用しない: 自身が事業主であり、他の従業員を雇用していない個人事業主(または一人法人)が主な対象です。
  • 特定業務委託事業者との業務委託契約にて役務提供等を行う: この法律は、フリーランスに業務を委託する事業者、すなわち「特定業務委託事業者」(従業員を使用する事業者)との間の業務委託契約に適用されます。

要するに、一人で仕事を請け負う個人事業主(従業員なし)が、従業員を雇用している企業や個人事業主から業務を受託する際に、この法律が適用されるということです。

フリーランス保護新法が課す企業の義務

フリーランス保護新法は、特定業務委託事業者(フリーランスに業務を委託する企業など)に対し、フリーランスの就業環境の整備を目的とした義務を課しています。主な義務は以下の通りです。

  • 書面等による取引条件の明示義務: 契約内容、報酬額、支払い期日、解除条件など、取引に関する重要な条件を、フリーランスに対し書面または電磁的方法で明確に示さなければなりません。これにより、トラブルの原因となる曖昧な契約関係を防止します。
  • 育児介護等と両立した業務遂行への配慮義務: フリーランスが育児や介護などと両立して業務を遂行できるよう、申し出に応じて必要な配慮をしなければなりません。例えば、業務の納期調整や、作業場所の柔軟な対応などが求められる可能性があります。これは、労働者に対する育児介護休業法の考え方を、フリーランスにも部分的に適用するものです。
  • 継続的業務委託の中途解除・不更新時の事前予告義務: 継続的な業務委託契約を途中で解除する場合や、更新しないこととする場合は、原則として30日前までにその旨をフリーランスに予告しなければなりません。これにより、フリーランスが次の仕事を探す期間を確保し、生活の安定を図ることを目的としています。
  • その他、ハラスメント対策やトラブル相談対応など: パワーハラスメント、セクシュアルハラスメントなど、フリーランスに対するハラスメントを防止するための措置を講じる義務も課されます。また、フリーランスからの契約内容に関する相談に対応するための体制整備も求められます。

これらの義務は、労働基準法等の労働法で労働者に対して保障されている権利や保護を、契約上は「労働者」ではないフリーランスにも部分的に及ぼすことで、彼らの弱い立場を保護しようとするものです。

違反した場合の措置と企業の対応

フリーランス保護新法に違反した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官または厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、以下の措置を講じることができます。

  • 助言、指導、報告徴収、立入検査: まずは行政による指導や検査が行われます。
  • 勧告、公表: 違反行為が悪質な場合や指導に従わない場合、勧告を行い、その事実を公表される可能性があります。公表は企業の信用に大きな打撃を与えます。
  • 命令: さらに悪質な場合や勧告に従わない場合、改善命令が出されます。
  • 罰則: 命令に違反した場合や、検査を拒否した場合には、50万円以下の罰金に処される可能性があります。

これらを踏まえ、企業側が見直すべき点としては、

  • 契約内容の見直し: 現在の業務委託契約が、フリーランス保護新法の定める条件明示義務などを満たしているかを確認し、必要に応じて改訂します。
  • 運用体制の整備: フリーランスからの相談窓口の設置、ハラスメント防止策の策定、育児介護等への配慮に関する社内ルールの明確化などを行います。
  • 担当者への教育: 業務委託を担当する部署や担当者に対し、フリーランス保護新法の内容や「労働者性」の判断基準、偽装請負のリスクについて周知徹底し、適切な対応ができるよう教育します。
  • 「労働者性」の再確認: 自社で業務委託契約を締結しているフリーランスについて、改めて「労働者性」の有無を慎重に判断し、もし雇用契約とみなされる可能性がある場合は、契約形態の見直しを含めた対応を検討します。

フリーランスと労働者の境界線:正しい理解と運用へ

フリーランス保護新法が制定された背景には、フリーランスの増加と、それに伴う法的保護の必要性、そして「労働者」と「フリーランス」の境界が曖昧になっている現状があります。企業がフリーランスを正しく理解し、適正に運用していくためには、この境界線を明確に認識することが不可欠です。

「労働者」と「フリーランス」の決定的な違い

「労働者」か「フリーランス」かを分ける最も重要なポイントは、既に述べた「使用従属関係」があるかどうか、すなわち企業(発注者)の指揮命令下にあるかどうかです。

  • 労働者: 企業に雇用され、企業の指揮命令下で業務を遂行し、その労働そのものに対して賃金を受け取ります。労働基準法をはじめとする労働法規が適用され、社会保険や労働保険の保護を受けます。
  • フリーランス: 企業から独立した事業者として、自身の裁量と責任において業務を遂行し、成果物や業務遂行に対する報酬を受け取ります。原則として労働法規は適用されず、社会保険等は自己で手配する必要があります。

フリーランス保護新法は、形式上はフリーランスであるものの、実態として企業に対する従属性が高い、あるいは契約関係において不利な立場に置かれやすいフリーランスを保護するための法律です。これにより、フリーランスは労働者ではないが、一定の保護を受ける「新たな層」として位置づけられることになります。

労働者に任せるべき業務とフリーランスに任せるべき業務の区分け

企業が「偽装請負(偽装フリーランス)」のリスクを回避し、かつ、各契約形態のメリットを最大限に活かすためには、業務内容に応じて、労働者に任せるべき業務とフリーランスに任せるべき業務を明確に区分けすることが重要です。

  • 労働者に任せるべき業務:
    • 企業の基幹業務であり、長期的な視点で組織運営に不可欠な業務。
    • 企業の指揮命令下で、特定の時間や場所での継続的な労働が必要な業務。
    • 定型的な業務や、他の従業員との密接な連携・協調が常に求められる業務。
    • 企業の機密情報に深く関わる業務や、社内システムの運用・管理など、内部統制が不可欠な業務。
    • 将来的に専門性を高め、企業の核となる人材として育成したい業務。
  • フリーランスに任せるべき業務:
    • 特定の専門スキルやノウハウが必要で、社内にその人材が不足している業務。
    • プロジェクト単位や期間を定めて、集中的に遂行してもらいたい業務。
    • 成果物(例:デザイン、システム、記事など)が明確に定義できる業務(請負契約)。
    • 特定の事務処理代行やコンサルティングなど、独立した裁量で業務遂行が可能な業務(委任・準委任契約)。
    • 企業が指揮命令を行う必要がなく、フリーランス自身のスケジュールや作業場所で完結できる業務。
    • 社外の視点や新しい発想を取り入れたい業務。

士業法による業務制約への注意

フリーランスに業務を委託する際には、専門性の高い業務において「士業法」による制約があることにも注意が必要です。特定の業務は、特定の資格を持った「士業」(弁護士、税理士、社会保険労務士など)のみが行うことが認められています。

  • 社会保険労務士法: 労働・社会保険各法に基づく代理、手続きなど、社会保険労務士の独占業務は、資格を持たないフリーランスに委託することはできません。
  • 税理士法: 税務書類の作成、税務相談、税務代理など、税理士の独占業務は、資格を持たないフリーランスに委託することはできません。
  • 行政書士法: 官公署への提出書類の作成や許認可申請の代理など、行政書士の独占業務は、資格を持たないフリーランスに委託することはできません。
  • 弁護士法: 法律相談、交渉、訴訟代理など、弁護士の独占業務は、資格を持たないフリーランスに委託することはできません。

これらの士業法に違反して無資格者に業務を委託した場合、企業も罰則の対象となる可能性があります。フリーランスに「事務代行」として様々な業務を依頼する際には、その業務内容が特定の士業の独占業務に該当しないかを十分に確認することが不可欠です。


結論:適正な契約運用が未来の働き方を拓く

「雇用・請負・準委任」という役務提供契約の各類型を正しく理解し、その実態に合わせた運用を行うことは、現代の企業経営において避けては通れない課題です。特に、労働流動性が高まり、フリーランスという働き方が浸透する中で、「労働者性」の判断はますます複雑化しています。

企業としては、形式的な契約書の名称だけでなく、以下の点を常に自問自答し、実態に即した運用を心がける必要があります。

  • そのフリーランスに対し、業務の進め方や時間・場所について具体的な指揮命令を行っていないか?
  • 報酬は、労働時間ではなく、成果物の完成や業務の遂行そのものに対して支払われているか?
  • フリーランスは、自身の裁量で業務を遂行し、必要経費や機材も自己負担しているか?
  • 契約条件の明示、育児介護への配慮、中途解除・不更新時の事前予告など、フリーランス保護新法の義務を遵守しているか?
  • 委託する業務内容が、特定の士業の独占業務に該当しないか?

これらのポイントを定期的に確認し、もし「労働者性」が疑われるような状況があれば、速やかに契約形態の見直しや業務運用の改善を行うべきです。偽装請負と認定された場合のリスクは、企業の経営に甚大な影響を与える可能性があります。

適切な契約形態の選択と運用は、単に法的リスクを回避するだけでなく、企業とフリーランス双方にとって健全で生産的なパートナーシップを築く基盤となります。フリーランスの専門性と柔軟性を最大限に活かし、かつ、彼らの保護をないがしろにしない。そのような適正な契約運用こそが、変化の激しい現代社会における、持続可能なビジネスモデルと、多様な働き方を拓く鍵となるでしょう。

もし、ご自身のケースでどちらの契約形態が適切か判断に迷う場合や、フリーランス保護新法への具体的な対応について不安がある場合は、弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士といった専門家にご相談いただくことを強くお勧めします。専門家の知見を活用し、法的なリスクを排除しながら、新しい働き方の可能性を追求していきましょう。

監修者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。

単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。 また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようにお願いいたします。

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