働き方改革推進支援助成金(システム導入とのシナジーが高い助成金)
目標に向けた生産性向上の取組に対して助成されます。
皆様、助成金はうまく活用できていますでしょうか?助成金があることは知っていても、どのように申請すればよいのか、またどのような助成金があるのかわからないという声をしばしば耳にします。そこで弊社の得意な領域である、システムによる作業工数削減又は安全衛生等の労働環境改善に便利な助成金について詳しく解説していきたいと思います。
今回は勤怠システムや会計システムの新規導入等とシナジーの高い、働き方改革推進支援助成金について解説していきたいと思います。
働き方改革推進支援助成金とは?
2019年4月1日に施行された働き方改革関連法案を推進するための中小事業主の取り組みを支援することを目的とした助成金で2020年から創設されております。
2023年度は5つのコースが用意されたおります。5つのコースそれぞれに定められた目標をクリアすることで、「目標達成のための取り組みに向けた生産性向上の取り組み」に関する設備や取組に係る経費の75%が雇用保険に加入している中小事業主を対象に助成される助成金です。(※従業員数30人以下の場合は80%になる場合があります。)
目標を達成するための取り組みに必要な費用のうち以下の項目のもの※3/4が助成されます。
① 労務管理担当者に対する研修
② 労働者に対する研修周知・啓発
③ 外部専門家によるコンサルティング
④ 就業規則・労使協定等の作成・変更
⑤ 人材確保に向けた取り組み
⑥ 労務管理用ソフトウェア等の導入・更新
⑦ 労働能率を上げる設備・機器などの導入・更新
なお、申請に際し原則2社以上の相見積もりが必要となります。(価格が市場価格と乖離していないことを、客観的に示すため。)
・対象となる中小事業主
①助成金の対象となる事業主は、次の要件のすべてを満たしている必要があります。
(1)労働者災害補償保険の適用事業主
(2)下表のいずれかに該当する中小企業事業主
※ただし医業に従事する医師が勤務する病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院は労働者数が 300 人以下の場合に中小企業に該当します
ただし、各コースで設定されている目標をすでに達成している場合や過去に助成金等で不正を行った場合等には助成されません。
※その他各コースで要件が微妙に異なりますので、必ず特設サイトで確認するようにしてください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/index.html
それでは各コースを見ていきましょう
Ⅰ労働時間適正管理推進コース
支給対象となる取組は、以下の「成果目標」1から3まで全ての目標達成を目指して実施してください。
1:全ての対象事業場において、新たに勤怠(労働時間)管理と賃金計算等をリンクさせ、賃金台帳等を作成・管理・保存できるような統合管理ITシステム(※)を用いた労働時間管理方法を採用すること。
※ネットワーク型タイムレコーダー等出退勤時刻を自動的にシステム上に反映させ、かつ、データ管理できるものとし、当該システムを用いて賃金計算や賃金台帳の作成・管理・保存が行えるものであること。
2:全ての対象事業場において、新たに賃金台帳等の労務管理書類について5年間保存することを就業規則等に規定すること。
3:全ての対象事業場において、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に係る研修を労働者及び労務管理担当者に対して実施すること。
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
Ⅱ労働時間短縮・年休促進支援コース
支給対象となる取組は、以下の「成果目標」1から3のうち1つ以上選択し、その達成を目指して実施してください。
1:全ての対象事業場において、令和5年度又は令和6年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、又は月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
2:全ての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
3:全ての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
上記の成果目標に加えて、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引上げを3%以上行うことを成果目標に加えることができます。
Ⅲ勤務間インターバル導入コース
事業主が事業実施計画において指定したすべての事業場において、休息時間数が「9時間以上11時間未満」または「11時間以上」の勤務間インターバルを導入し、定着を図ること。
具体的には、事業主が事業実施計画において指定した各事業場において、以下のいずれかに取り組んでください。
ア 新規導入
勤務間インターバルを導入していない事業場において、事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とする、休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を労働協約または就業規則に定めること
イ 適用範囲の拡大
既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下であるものについて、対象となる労働者の範囲を拡大し、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象とすることを労働協約または就業規則に規定すること
ウ 時間延長
既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、当該事業場に所属する労働者の半数を超える労働者を対象として、当該休息時間数を2時間以上延長して休息時間数を9時間以上とすることを労働協約または就業規則に規定すること
さらに賃金額の引上げを成果目標に加えた場合の加算額は、指定した労働者の賃金引上げ数の合計に応じて、次の表のとおり、上記上限額に加算されます。
なお、引き上げ人数は30人を上限となります。
労働時間等設定改善委員会の設置
本助成金の要件として、労働時間等設定改善委員会の設置し、以下のように取り組む必要があります。
①労働時間等設定改善委員会の設置(苦情の申し出先等の設置・規程に新制度導入など)
②委員会での話合いにおいて生産性向上ための取組を計画し、労働者に周知する
③実施計画を実施し、目標に向けた取り組みを行い、労働時間改善を削減する。
そもそも働き方改革とは?
一度は耳にしたことがあることのある「働き方改革」ですが、何を目的にどのような施策が実施されているかご存じでしょうか?
働き方改革の目的は下記のように定められています。
厚生労働省「働き方改革」の実現に向けてより引用:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
すなわち、働き方改革では、ひとりひとりが自分のライフプランやキャリアプランに沿った「多様な働き方」を選択できる社会を目指しております。
しかしながら、中小事業主にとって上記のような取り組みを行うことは「金銭面」が大きなハードルとなっております。
そこで雇用保険を財源とした助成金を交付することで、働きやすい職場環境を作ることを目的に働き方改革推進支援助成金が創設されました。
ポイントは生産性向上の取組を理解すること
この助成金のポイントは「生産性向上の取り組み」が何を指すのかを理解することにあります。
交付要領に目を移すと本助成金の目的がはっきりし、どのよう取り組みに対し助成され、また助成されない取り組みなのかが見えてきます。
(各コースの要領2条より共通部分を抜粋)
この助成金は、働き方改革の推進に向けて、中小企業事業主が、【※各コースの目的】を実施するため
研修、周知・啓発、【※各コースの目標を達成に必要な】機械・器具の導入等を実施し、生産性の向上を図り、労働時間等の設定の改善の成果を上げた事業主に重点的に助成金を支給することにより、中小企業における、中小企業における労働時間等の設定の改善の推進を図ることを目的とする。
主語と述語を抜き出してみましょう、目的が見えてきます。「この助成金は、中小企業における労働時間等の設定の改善の推進を図ることを目的とする。」
すなわち、生産性向上の取組 = 労働者の労働時間を削減する取り組みであることが条件となります。
労働者の労働時間の削減につながる取組である必要があります。
対象経費になるかの判断をするにあたりQ&A資料に認められる例と認められない例が載っておりますので確認していきましょう。
・認められない事例
オフィスのエアコンの更新
理由:「労働能率の増進に資する設備・機器等」かどうかは、労働者が直接行う業務負担を軽減する、または生産性向上により労働時間の縮減に資する設備・機器等かどうかで判断される。不快感の軽減や快適化を図ることを目的とした場合には対象とならない。
クラウド型のコールセンターを運営する企業において、一度に受けられる問い合わせをより多くするために回線を増設する
理由:本件の場合は、回線を増やしたとしても、コールセンターの問い合わせ対応等が効率化されるわけではなく、また、回線を増やすことによって対応件数が増加するだ
けで、既存労働者の労働能率の向上が図られるとは認めがたい。よって、申請事業主から、労働能率の向上について特段の疎明がない限り支給対象外である。
歯科医院において事業主である医師と看護師の共同作業で生検のための作業を行うための内視鏡ビデオスコープシステムの購入。※検査の主体は医師であり、当該機器の特性の利点を主に享受するのは医師であり労働者ではないが当該機器は支給対象となるか
理由:医師・歯科医師のみが扱える機器であっても、当該機器の導入により、これまで医師・歯科医師の補助をしていた労働者の作業が減り、その結果、当該労働者が担当
する業務における作業時間が削減されるのであれば、支給対象となりうるが、本ケースは該当とならなかったため支給対象とならない。
・認められた事例
POS装置を導入し在庫管理の負担を軽減する(小売業)
成分分析計を携帯型のものに更新し作業場と事務所間の移動時間を削減する(製造業)
入出荷システムを導入し入出荷と在庫管理を連動させ業務の効率化を図る(倉庫業)
業務システムを導入し生徒の成績管理等の業務の効率化を図る(学習塾経営)
働き方改革推進支援助成金Q&A:https://www.mhlw.go.jp/content/001130840.pdf
助成金の意図を汲んだ形での申請が必要不可欠
すべての助成金に言えることですが、まずは「助成金の意図」をしっかり理解することが重要と言えます。今回の働き方改革推進助成金は生産性向上の取組 = 労働者の労働時間を削減する取り組みをすることで、各コースの目標を達成することを目指して実施することと言えます。このように意図をしっかり理解した上で、各コースの要件を読み込んでいくことが、助成金受給のための第1歩と言えます。
※助成金の受給には、法令を読む力と労務運用を理解していることが必要不可欠です。代行サービスで「助成金アドバイザー」を名乗る業者からのサービスを受けるのは違法性の可能性があり、極めて危険です。助成金の代行は社会保険労務士法により、社会保険労務士の独占業務と定められており、代行業務を無資格者が行うことは違法となります。
助成金について相談をしたい場合は、是非社会保険労務士の相談するようにしてください。
執筆者
社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようお願いします。