試用期間を有期雇用にすることのリスク ―― 公法的リスクと私法的リスクの整理

正社員として採用したい人を、見極めのために「まず6か月の有期契約」で雇い入れ、その後に正社員へ切り替える。この「有期雇用による試用期間」は、一見すると合理的な採用手法に見えます。
しかし、このスキームは労働法の複数の場面で問題を生じさせます。本稿では助成金の話を切り離し、このスキームそのものが会社にもたらすリスクを、「公法的リスク」(行政による監督・是正・罰則の対象になるもの)と「私法的リスク」(労働者との間で契約の効力や損害賠償が争われるもの)に分けて整理します。
なお、このスキームがキャリアアップ助成金の受給を目的として広まっている経緯、支給要領上そもそも対象外であること、勧めてくる専門家や人材紹介会社への注意点は、別記事で扱っています。
前提:試用期間と有期雇用は別物
両者の法的性質を確認しておきます。
| 試用期間付き正社員 | 有期雇用 | |
|---|---|---|
| 契約の性質 | 解約権留保付の無期労働契約(三菱樹脂事件・最大判昭48.12.12) | 期間の定めのある労働契約 |
| 期間を区切る理由 | 適性の評価 | 業務側の合理的理由(繁忙、代替、プロジェクト等) |
| 期間終了時 | 本採用(原則)。拒否は解雇 | 期間満了で終了、または更新 |
| 期間途中の終了 | 留保解約権の行使(解雇) | 「やむを得ない事由」がなければ不可(労契法17条1項) |
「有期雇用による試用期間」は、目的は試用期間、形式は有期雇用という組み合わせです。このズレが、以下のすべてのリスクの源になります。
Ⅰ 公法的リスク ―― 行政監督・是正・罰則

1. 職業安定法:求人表示と実態の不一致
正社員として採用したい人を集めるため、求人は「正社員」で出す。しかし実際の雇入れは有期契約。この時点で、求人内容と労働条件の食い違いが生じます。
- 職業安定法5条の3は、求人者に対し労働条件(契約期間を含む)の明示を義務づけ、求人票と実際の条件が異なる場合は変更内容を明示することを求めています。
- 令和4年改正で新設された5条の4は、求人情報の「的確な表示」を義務づけ、虚偽または誤解を生じさせる表示を禁止しています。
- 違反には行政指導・改善命令があり、ハローワークでは求人不受理の対象にもなり得ます。虚偽の求人については罰則(65条)もあります。
「正社員募集」で集めて有期で採る運用は、この規律に真正面から抵触します。
2. 労働基準法15条:労働条件明示義務
有期契約で雇い入れる以上、労働条件通知書には次の事項の明示が必要です(労基法15条、労基則5条)。
- 契約期間
- 更新の有無、更新の判断基準
- 更新上限の有無・内容(令和6年4月から)
- 無期転換申込機会と転換後の労働条件(該当時)
「試用のつもり」で有期にした会社は、この明示がおざなりになりがちです。「更新の判断基準」を書けないのは、そもそも更新するか否かを業務上の理由で決める契約ではないからです。明示義務違反は30万円以下の罰金(労基法120条)の対象であり、労基署の是正勧告の典型項目です。
3. 有期労働契約の締結・更新・雇止めに関する基準(厚労省告示)
労基法14条2項に基づく告示は、更新の有無・判断基準の明示、雇止め理由の明示、契約期間についての配慮などを定めています。労基署はこの基準に基づき助言・指導を行うことができます。「試用目的で期間を区切る」運用は、告示が想定する「期間を区切る必要性」を欠くため、指導の対象になりやすいものです。
4. パートタイム・有期雇用労働法:同一労働同一賃金の問題
有期期間中、正社員と同じ業務をさせながら、賞与・手当・退職金などを外す運用が多く見られます。
- 8条(不合理な待遇差の禁止):職務内容・配置変更範囲・その他の事情に照らして不合理な待遇差は禁止
- 14条2項(説明義務):労働者から求めがあれば、正社員との待遇差の内容と理由を説明する義務
- 18条:都道府県労働局長による報告徴収・助言・指導・勧告、勧告に従わない場合の企業名公表
「試用期間のようなものだから待遇が違う」という説明は、法が認める「その他の事情」には当たりません。
5. 社会保険・雇用保険の適用
「試用期間中は社会保険に入れない」という誤解が、有期雇用の形をとることでさらに広がりやすくなります。
- 健康保険・厚生年金:2か月以内の有期契約でない限り、雇入れ日から適用
- 雇用保険:31日以上の雇用見込みがあれば雇入れ日から適用
6か月契約であれば初日から加入義務があります。未加入は年金事務所の調査対象であり、遡及加入・追徴の対象です。
6. 労働基準法20条・21条:解雇予告
後述のとおり、この契約は法的には「試用期間付き無期契約」と評価される可能性が高く、その場合の「期間満了」は解雇として扱われます。
- 労基法21条は、試用期間中の者について「14日を超えて引き続き使用されるに至った場合」は解雇予告の適用除外から外しています。
- つまり6か月経過後の「期間満了」が解雇と評価されれば、30日前の予告または予告手当が必要だったことになります。
「有期だから予告不要」と考えて手続を省略すると、労基法違反が後から成立する構造です。
7. 行政への申告・紛争解決手続
労働者は労基署への申告(労基法104条)、労働局の個別労働紛争解決制度(助言・指導・あっせん)、パート有期法に基づく調停などを利用できます。有期による試用運用は、求人表示・労働条件明示・待遇差・社会保険と、申告のきっかけになる論点が複数重なっています。
Ⅱ 私法的リスク ―― 契約の効力と損害賠償
1. 契約解釈:期間の定めが「試用期間」と認定される
最も根本的なリスクです。
神戸弘陵学園事件(最判平2.6.5)は、次のように判示しました。
使用者が労働者を新規に採用するにあたり、契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情がない限り、その期間は契約の存続期間ではなく試用期間であると解するのが相当である。
このスキームの怖さは、うまくいっている間は表に出ないことです。6か月後に全員を正社員にしている限り、誰も争いません。問題が顕在化するのは、「この人は正社員にしたくない」と会社が判断した瞬間です。そのとき会社は「有期契約だから期間満了で終了」と主張したくなりますが、裁判所はまず契約の実態を見ます。
上記の枠組みに当てはめると、
- 求人は正社員、面接で「半年後に正社員」と説明
- 業務内容・勤務条件は正社員と同じ
- 期間を区切った理由は「様子を見るため」
という事案では、6か月の期間は試用期間と認定され、契約は当初から期間の定めのない契約と評価される可能性が高くなります。
2. 「期間満了」が解雇として審査される
契約が無期と評価されれば、6か月後に正社員にしないという判断は「本採用拒否」であり、法的には解雇です。
- 労契法16条:客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く解雇は、権利濫用として無効
- 試用期間中の解約権行使は通常の解雇より広く認められるとはいえ、勤務態度や能力について具体的な事実と指導の経過が必要(三菱樹脂事件、その後の裁判例)
問題は、有期のつもりで運用してきた会社には指導記録・評価根拠・改善機会の付与といった証拠がないことです。正社員の試用期間として正しく運用している会社より、はるかに不利な状態で解雇の有効性を争うことになります。
解雇無効の帰結は、地位確認と解雇日以降の賃金支払(バックペイ)です。争いが1年続けば、1年分の賃金が損害として積み上がります。
3. 仮に有期契約と認められても:雇止め法理
裁判所が期間の定めを有効と認めた場合でも、次の関門があります。
労契法19条は、更新への合理的期待がある場合、客観的合理的理由と社会通念上の相当性を欠く雇止めを認めず、従前と同一の条件で契約が更新されたものとみなします。
「正社員登用を前提として採用」「面接で登用を約束」「同じ業務の他の者は全員転換」といった事情は、更新(あるいは正社員への移行)への合理的期待を強く基礎づけます。結果として雇止めは無効となり、有期契約が継続することになります。
つまり、無期と評価されれば解雇法理、有期と評価されても雇止め法理が待っており、「期間満了で自由に終われる」という出口はどちらのルートでも閉ざされています。
4. 期間途中の解約ができない(労契法17条1項)
見落とされがちですが、有期契約には試用期間にない硬直性があります。
労契法17条1項は、有期契約の期間途中の解雇を「やむを得ない事由がある場合」に限定しています。これは通常の解雇より厳しい要件です。
正社員の試用期間であれば、期間途中でも留保解約権の行使が可能です(相当性は必要)。ところが有期にしてしまうと、6か月の途中で「明らかに合わない」と判明しても、原則として期間満了まで雇用を続けなければなりません。「切りやすくするため」に選んだ契約形態が、実際には試用期間より切りにくいという逆転が起きます。
5. 均衡待遇違反による損害賠償(パート有期法8条)
公法的リスクとして述べた待遇差の問題は、私法上は損害賠償請求として現れます。
最高裁は、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件(平30.6.1)、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件・日本郵便事件(令2.10.13、10.15)で、手当・休暇等の個別の待遇ごとに不合理性を判断する枠組みを確立しています。
正社員と同一の業務・責任で6か月働かせながら、正社員には支給する手当(通勤手当、精皆勤手当、住宅手当等)や有給の特別休暇を外していれば、その差額相当の損害賠償が認められる可能性があります。「試用期間相当だから」という説明は、正社員の試用期間中にはそれらの待遇を与えている以上、むしろ不合理性を裏づける方向に働きます。
6. 期待権侵害・説明義務違反による不法行為責任
「半年後に正社員にする」と告げて採用し、結果として登用しなかった場合、契約の効力とは別に、不法行為に基づく損害賠償(慰謝料等)が問題になります。
裁判例は、採用過程での説明と実際の取扱いが大きく食い違い、労働者が転職・生活設計の判断を誤らされた場合に、期待権侵害や信義則上の説明義務違反を認めることがあります。有期による試用運用は、採用時の説明(正社員)と契約の形式(有期)が最初から食い違っているため、この類型に該当しやすい構造です。
7. 就業規則の適用関係が不明確になる
正社員就業規則しかない会社が有期契約を締結すると、有期労働者にどの就業規則が適用されるのかが曖昧になります。
- 有期用の就業規則がなければ、正社員就業規則が適用されると解釈される余地がある(労契法7条・12条)
- その場合、賞与・退職金・昇給の規定も適用対象となり、待遇差の説明はさらに困難になる
- 逆に有期用就業規則を急ごしらえで作ると、正社員との待遇差が形式的で実態を伴わないものになりやすい
契約類型を増やすということは、就業規則・賃金規程・労働条件通知書のすべてを整合させる義務を負うことです。
8. 紛争コストとレピュテーション
労働審判は申立てから概ね3か月で終結し、会社側は短期間で証拠を整える必要があります。有期による試用運用は、求人票・面接記録・労働条件通知書・賃金台帳のすべてに「言っていることとやっていることのズレ」が残るため、会社側にとって極めて立証しにくい事案です。
加えて、元従業員による口コミサイトやSNSでの発信、ハローワークでの求人不受理、労働局の企業名公表など、採用市場での評判に直結するリスクが並行して存在します。
Ⅲ リスクの構造 ―― なぜこのスキームは成り立たないのか
ここまでのリスクを一枚にまとめると、次の構造が見えてきます。
目的:正社員の適性を見極めたい(=試用)
形式:有期雇用契約
↓ 目的と形式のズレ
公法:求人表示・労働条件明示・待遇差・社保・解雇予告のすべてで
「形式」に沿った手続が「目的」と矛盾し、違反が生じる
私法:裁判所は「目的」に沿って契約を解釈するため、
「形式」が期待させた効果(期間満了で終了)は得られない
要するに、形式を有期にしても、法は実態(試用)に従って評価するということです。
正社員として採用し、試用期間を誠実に運用している会社が数多くある中で、「契約の名前を変えたから解雇ではなく雇止めになる」という論理が通る余地はありません。
Ⅳ では、どうすべきか ―― 試用期間の正しい運用
見極めが必要なら、正社員として採用し、試用期間を正しく運用するのが、法的にも実務的にも最も安全です。
- 試用期間の長さは3〜6か月程度、就業規則に明記(延長する場合はその要件と上限も)
- 試用期間中の評価項目・基準を事前に本人へ提示
- 定期的な面談と指導の記録を残す(日付、指摘内容、改善の機会を与えた事実)
- 本採用拒否は「試用期間中の勤務状況から判明した事実」に基づき、具体的理由を書面で示す
- 14日を超えた本採用拒否には解雇予告(または予告手当)を行う
- 試用期間中も賃金以外の待遇(社会保険、有給休暇、手当)は正社員として適用する
これらは「有期にすれば省ける手間」ではなく、有期にしても結局は必要になる手間です。
であれば、最初から正社員の試用期間として正面から運用するほうが、会社にとっても本人にとっても筋が通ります。
本当に業務側に期間を区切る理由がある場合(繁忙対応、代替要員、プロジェクト等)に限り、有期雇用は本来の機能を発揮します。その場合は求人段階から有期であることを明示し、更新の判断基準と上限を定め、正社員登用制度は別途、客観的基準に基づく制度として整備する――これが、有期雇用と正社員登用の正しい関係です。
まとめ
- 試用期間は「解約権留保付の無期契約」、有期雇用は「期間の定めのある契約」。目的も法的性質も異なる
- 試用目的で有期契約を使うと、公法面では職安法・労基法15条・パート有期法・社保・解雇予告の各場面で違反が生じ、私法面では契約が無期と評価され「期間満了」が解雇として審査される
- 仮に有期と認められても雇止め法理があり、期間途中の解約はむしろ試用期間より困難
- 待遇差は損害賠償、採用時の説明との食い違いは期待権侵害として、それぞれ独立に責任を生じさせる
- 見極めが必要なら、正社員として採用して試用期間を正しく運用することが、最も安全で筋の通った方法である
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免責
本稿は執筆時点(令和8年8月)の法令・判例に基づく一般的な解説であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

