「良い人が来ない」を仕組みで解決する ―― 地場企業のための採用ファネル入門

はじめに ―― 地場企業の採用は「気合い」では続かない
「求人を出しても応募が来ない」 「たまに来ても、すぐ辞めてしまう」 「大手のように給与や知名度で勝負できない」
地方・地場で事業を営む中小企業から、こうした声を毎日のように聞きます。人手不足は年々深刻になり、採用は経営の生命線になりました。
ただ、多くの地場企業の採用がうまくいかない本当の理由は、「求人媒体が悪い」からでも「地方だから」でもありません。採用活動を"点"でしか捉えていないことにあります。
「とりあえずハローワークに出す」「知り合いの紹介を待つ」「よその会社が使っている媒体を真似してみる」――こうした場当たり的な打ち手を続けている限り、成果は運任せになります。
そこで本記事では、採用を"仕組み"として設計するための考え方――採用ファネル――を紹介します。特に、予算の限られた地場企業でも今日から取り組める、公的リソースを軸にした母集団形成の具体策を中心にお話しします。

採用ファネルとは何か
ファネル(funnel)とは「漏斗(じょうご)」のこと。マーケティングの世界では、見込み客が購入に至るまでの段階を、上から下に絞られていく漏斗の形で捉えます。採用も、実はまったく同じ構造です。
採用ファネルは、おおまかに次の段階で構成されます。
- 母集団形成(自社を知り、応募候補となる人を集める)
- 応募(実際にエントリーしてもらう)
- 選考(面接・見極め)
- 内定(オファーを出す)
- 入社・定着(実際に働き、辞めずに活躍してもらう)
大事なのは、どこか一段階でも詰まると、下流のすべてが細くなるという点です。
たとえば選考も内定フローも整っているのに、いつまでも人が採れない会社は、たいてい入り口(母集団形成)が細すぎるのが原因です。逆に、応募はそこそこ来るのに採用に至らない会社は、選考や内定フローに問題があります。
自社のファネルの「どこが詰まっているか」を特定することが、採用改善の第一歩です。そして地場企業の場合、最初のボトルネックはほぼ例外なく**「母集団形成」**にあります。そこで、この記事では母集団形成にフォーカスします。
母集団形成①:無料・公的リソースをフル活用する
地場企業の強みは、大手にはない「地域とのつながり」です。この強みは、公的な就労支援機関との連携によって最大限に活かせます。しかも、その多くは無料です。
ハロートレーニング(公的職業訓練校)でのインターンシップ実施
「ハロートレーニング」は、公的職業訓練の愛称です。ここには、手に職をつけて再就職しようという意欲の高い人材が集まっています。介護、機械加工、電気、経理事務など、訓練科目も実に多彩です。
訓練校と連携してインターンシップ(企業実習)を受け入れると、次のようなメリットがあります。
- 求人票では伝わらない自社の魅力を、実際の職場で体感してもらえる
- 「働きぶり」を見てから採用判断ができるため、ミスマッチが激減する
- 学びたてのスキルを持った人材と、早い段階で接点を持てる
まずは最寄りの職業訓練校(都道府県の運営校やポリテクセンター)に「実習受け入れ企業として登録したい」と問い合わせてみましょう。
学校訪問 ―― 地元の学校とパイプをつくる
地元の高校・専門学校・大学のキャリアセンターや進路指導の先生は、地域の若者と企業をつなぐ最も強力なハブです。
新卒採用というと大手の説明会をイメージしがちですが、地場企業にとっての勝ち筋はむしろ**「顔の見える関係づくり」**です。
- 求人票を送るだけでなく、実際に学校を訪問して自社を説明する
- 先生に工場・事業所を見学に来てもらう
- 卒業生(自社社員)に母校とのパイプ役になってもらう
「あの会社は地元に根を張って、まじめに人を育てている」という評判は、進路指導の現場でじわじわと効いてきます。単発で終わらせず、毎年続けて関係を積み上げることが肝心です。
大学のカリキュラムに協力する(キャップストーン等)
学校訪問の一歩先にあるのが、大学の教育カリキュラムそのものに企業として参画するという方法です。
近年、多くの大学が課題解決型・実践型の授業を取り入れています。たとえば京都先端科学大学のキャップストーン(学びの集大成として、学生がチームで実社会の課題に取り組むプロジェクト型授業)のような場に、地場企業が「課題を提供する側」として協力するケースが増えています。
企業がこうしたカリキュラムに関わる意義は、単なる求人票の掲載とは次元が異なります。
- 学生が就職活動を始めるより前の段階で、自社と数か月にわたって深く関わってもらえる
- 実際に一緒に手を動かすことで、学生の思考力・人柄を、企業側もじっくり見極められる
- 「地元にこんな面白い会社があったのか」という発見が、そのまま志望動機につながる
- 大学・教員との継続的な信頼関係が生まれ、翌年以降の採用パイプになる
「知名度がなくて学生に見つけてもらえない」という地場企業の弱みを、教育連携という接点で根本から覆せるのが最大の魅力です。まずは地元大学のキャリアセンターや産学連携窓口に「授業・プロジェクトに協力したい」と打診してみましょう。
京都ジョブパーク
京都府内の企業であれば、京都ジョブパークは外せません。京都府と国(労働局)が共同で運営するワンストップ就業支援拠点で、若者・女性・中高年・障害者など、幅広い層の求職者が利用しています。
企業側は、求人の掲載やマッチング支援を無料で受けられます。キャリアカウンセラーが求職者の希望と企業のニーズをつないでくれるため、ミスマッチの少ない紹介が期待できます。地域密着の支援機関だからこそ、「地元で働きたい」人材と出会いやすいのが最大の魅力です。
※京都府以外の企業も、各都道府県に類似のジョブカフェ・就業支援拠点があります。ぜひ地元の窓口を確認してください。
若者雇用促進総合サイト(ユースエール認定の活用)
ユースエール認定制度は、若者の採用・育成に積極的で、雇用管理が優良な中小企業を、国(厚生労働省)が認定する制度です。
認定を取得すると、次のような効果が期待できます。
- 若者雇用促進総合サイトをはじめ、ハローワーク等で企業情報がPRされる
- 認定マークを求人票・名刺・自社サイトで使える(対外的な信頼の証になる)
- 一部の助成金で優遇措置を受けられる場合がある
「知名度がない」ことが弱みの地場企業にとって、国のお墨付きは強力な武器です。労働時間・有休取得・育成体制などの認定基準を満たす取り組みは、そのまま「定着率の高い会社づくり」にもつながります。認定要件の整備は、社労士がお手伝いできる領域でもあります。
自衛隊の再就職支援(援護制度)
意外と知られていませんが、任期満了で退職する自衛官の再就職は、有力な採用チャネルです。
自衛隊には退職者の再就職を支援する仕組みがあり、企業は各地の**援護担当窓口(地方協力本部など)**を通じて求人を出せます。
自衛隊出身者には、次のような特長を持つ方が多くいます。
- 規律・体力・チームワークが身についている
- 責任感が強く、まじめに勤め上げる姿勢がある
- 若くして退職する任期制隊員は、伸びしろも大きい
建設・製造・運輸・警備といった現場系の職種とは特に相性が良く、地場企業の即戦力・幹部候補として期待できます。
ハローワーク × Indeed の連携
「ハローワークは今どき効果がない」と思っていませんか。実は、ハローワークの求人は求人検索エンジンと連携しているため、書き方次第で露出は大きく変わります。
Indeedをはじめとする求人検索エンジンは、各所の求人情報を横断的に集めて表示します。ハローワークに出した求人も、こうしたエンジン経由で幅広い求職者の目に触れる可能性があります。
ポイントは、**「無料だからと手を抜かない」**こと。
- 職種名を、求職者が実際に検索する言葉で書く(例:「製造」より「機械オペレーター」)
- 仕事内容・待遇・職場の雰囲気を具体的に書き込む
- 「未経験歓迎」「地元で腰を据えて働ける」など、地場企業ならではの訴求を入れる
無料媒体でも、検索されやすく・読まれやすい求人票に磨けば、母集団は着実に広がります。
そして、Indeed連携で見逃せないのが、きちんとした採用ホームページ(採用サイト)を用意することです。
Indeedのような求人検索エンジンは、自社の採用ページを取り込んで表示させることができます。つまり、採用HPは「無料で露出を増やす受け皿」であると同時に、母集団形成から"応募"への転換点でもあります。検索でたどり着いた求職者が最後に「ここで働きたい」と決めるのは、この採用ページを見た瞬間だからです。
地場企業の採用HPで最低限おさえたい要素は、次のとおりです。
- 仕事内容・一日の流れ・キャリアパスが具体的にイメージできる
- 社員インタビューや職場写真で「働く人の顔」が見える
- 給与・休日・福利厚生などの条件が正直に、わかりやすく書かれている
- 「地元で長く働ける」「家族との時間を大切にできる」など、地場ならではの価値が伝わる
- スマートフォンで見やすく、応募までの導線が迷わない
立派なコーポレートサイトと違い、採用HPは求職者一人に語りかけるページです。凝ったデザインよりも、「この会社なら安心して働けそうだ」と思ってもらえる中身が、応募率を大きく左右します。
母集団形成②:有償媒体で「地場思考の人材」に狙いを定める
無料・公的リソースで土台を固めたうえで、有償媒体を「狙い撃ち」で重ねると、母集団形成はさらに厚くなります。ここで大切なのは、「大手が使う全国区の媒体」に無理に張り合わないことです。
地場系スカウトサイト:ジョブアンテナ
全国区の大手媒体では、地場企業の求人は膨大な情報の中に埋もれてしまいがちです。そこで有効なのが、地域特化型のスカウトサイトです。
その代表格が ジョブアンテナ です(※弊社は代理店として掲載のお手伝いが可能です)。
地域特化型サイトの利点は明快です。
- もともと「その地域で働きたい」人材が集まっている
- 大手媒体に比べて競合が少なく、自社が見つけてもらいやすい
- スカウト機能で、待つだけでなく企業側から能動的にアプローチできる
「地元志向」という条件で最初から母集団が絞り込まれているため、定着しやすい人材と出会える確率が高いのが最大の強みです。
タウンワーク等のフリーペーパー系媒体
タウンワークをはじめとする地域フリーペーパー系の媒体も、地場採用では依然として有効です。
- 地域の生活動線(コンビニ・スーパー等)で手に取られ、Webを日常的に見ない層にも届く
- パート・アルバイト・現場職の採用と特に相性が良い
- 「今の職場から近いところで」と考える潜在層にアプローチできる
Web媒体だけでは届かない層をカバーできるため、職種や狙う層に応じて使い分けましょう。
なぜ地場系媒体に「地場思考の人材」が集まるのか
有償媒体を選ぶうえで意識したいのは、「その媒体を見ている人は、どんな志向を持っているか」という視点です。
地域特化の媒体・フリーペーパーを見ている人は、そもそも「この地域で働きたい」「通勤圏内で長く働きたい」という前提を持っています。つまり、媒体の性質そのものが、地場企業にとって望ましい人材へのフィルターになっているのです。
給与や知名度で全国区の人材を奪い合うのではなく、「地元で腰を据えて働きたい人」に、地元の媒体で出会う――これこそ、地場企業が採るべき王道の戦略です。
まとめ ―― 「一発逆転」ではなく「組み合わせ」で設計する
地場企業の採用は、たった一つの魔法の媒体で解決するものではありません。大切なのは、ファネルの入り口である母集団形成を、複数のチャネルの組み合わせで太くしていくことです。
本記事で紹介したチャネルを、あらためて整理します。
【無料・公的リソース】土台をつくる
- ハロートレーニング(職業訓練校)でのインターンシップ受け入れ
- 学校訪問による地元校とのパイプづくり
- 大学カリキュラム(キャップストーン等)への協力
- 京都ジョブパーク(各地の就業支援拠点)の活用
- ユースエール認定と若者雇用促進総合サイト
- 自衛隊の再就職援護制度
- ハローワーク × 求人検索エンジンの連携+採用ホームページの整備
【有償媒体】狙いを定めて重ねる
- ジョブアンテナ(地場系スカウトサイト)
- タウンワーク等のフリーペーパー系媒体
まずは無料・公的リソースで土台を固め、そのうえで有償媒体を"狙い撃ち"で重ねる。この順番で母集団形成を設計すれば、限られた予算でも、地場企業ならではの強みを活かした採用が実現できます。
そして忘れてはならないのが、母集団を広げるだけでなく、選考・内定・定着までのファネル全体を整えることです。せっかく集めた人材も、選考フローや受け入れ体制が整っていなければ、下流で漏れていってしまいます。
採用を「点」で終わらせない ―― 要員計画と人事制度につなぐ
最後に、地場企業の採用で最も見落とされがちな、しかし最も本質的な視点をお伝えします。それは、採用は単独では成り立たないということです。
優れた採用設計は、上流と下流の両方につながっています。
上流:要員計画との接続 「今、人が足りないから採る」という場当たりの採用では、いつまでも自転車操業から抜け出せません。「事業計画上、いつ・どの部署に・どんな人材が・何人必要か」という要員計画があって初めて、どのチャネルにどれだけ力を入れるべきかが決まります。採用ファネルの入り口の設計は、要員計画から逆算するものです。
下流:人事制度との連携 苦労して採用しても、入社後の等級・評価・賃金・育成の仕組み(人事制度)が整っていなければ、人は定着せず、ファネルの最下流から漏れ続けます。「地元で腰を据えて長く働ける会社」という地場企業の訴求は、それを裏付ける人事制度があってこそ本物になります。
つまり、地場採用は 「要員計画 → 採用設計 → 人事制度」 という一本の線で設計してこそ、成果につながるのです。
とはいえ、公的制度の要件、地域の労働市場、そして人事制度までを一貫して押さえるのは、本業のかたわらでは容易ではありません。だからこそ、採用設計を要員計画・人事制度と接続して考えられる「地場採用に強い社労士」を味方につけるのが、遠回りのようで最もスムーズな道になります。
要員計画から採用設計、大学連携の活用、ユースエール認定の要件整備、採用ホームページ、そして定着につながる人事制度づくりまで――地場企業の採用は、上流から下流まで一本の線で設計することで成果が出ます。自社の採用ファネルの「どこが詰まっているか」を一緒に見直してみませんか。地場採用に強い社労士として、お気軽にご相談ください。
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

