労働基準法で何が決まっている?全13章の構成と主な内容をざっくり解説

はじめに

「労働基準法」と聞くと、難しそうな法律だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この法律は、私たちが働く上で「最低限、これだけは守られなければならないルール」を定めている、非常に大切なものです。会社が勝手に労働条件を決めることができないよう、私たち労働者の権利を守るために存在しています。

「労働基準法」という言葉は、私たちの日々の生活や労働環境に深く関わる重要な法律でありながら、その全体像や具体的な内容については、理解が難しいと感じる方も少なくないかもしれません。しかし、本法は、私たち働く者すべてにとって、「最低限、守られるべき労働条件の基準」を明確に定めており、企業が一方的に労働条件を決定することを防ぎ、労働者の基本的な権利を保障するための極めて重要な役割を担っています。

本稿では、この労働基準法が全13章でどのように構成され、それぞれの章でどのような主要な内容が規定されているのかを、できるだけ分かりやすく解説することを目的とします。本記事を通じて、読者の皆様が労働基準法への理解を深め、自身の労働環境を正しく認識するための一助となれば幸いです。

労働基準法とは?その役割を簡潔に解説

労働基準法とは、一言で言えば「働く人と会社が交わす約束事を守るための、基本的なルールブック」です。労働者の生活が守られるように、お給料(賃金)や労働時間、休日、そして会社を辞める時のことなど、基本的な労働条件について細かくルールを定めています。この法律は、正社員だけでなく、派遣社員、契約社員、パートタイム労働者、アルバイトといった、雇われて働くすべての人に適用されます。

もしこの法律がなければ、会社は「お給料は払わない」「毎日長時間働け」といった無理な要求をすることもできてしまうかもしれません。そのような事態にならないよう、労働基準法は、労働者が人間らしく安心して生活できるよう、最低限の労働条件の基準を設けているのです。

労働法制の歴史と背景

「労働法」という名前の単一の法律があるわけではなく、労働問題に関するたくさんの法律をまとめて「労働法」と呼んでいます。その中には、労働基準法の他に、労働組合法や男女雇用機会均等法、最低賃金法といった様々な法律が含まれています。

戦前の日本では、労働契約は民法に基づき、会社と労働者が自由に約束して労働条件を決めるのが原則でした。しかし、この「自由」が、劣悪な労働環境の蔓延を招くことになりました。例えば、「女工哀史」や「蟹工船」といった作品に描かれているような、非常に厳しい労働実態が横行していたのです。

第二次世界大戦後、日本国憲法第25条第1項で「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定められました。これを受けて、私たちの生活の大部分を占める労働環境を改善するために、労働基準法が「強行法規」として施行されました。労働基準法は、労働契約の最低限の基準を定めており、もしこの基準に満たない労働条件が決められても、その部分は無効となり、自動的に労働基準法の基準まで引き上げられることになります。また、法律に違反した場合には、罰則が科される刑事法の役割も持っています。

近年では、労働者がより働きやすい環境を作るため、ハラスメント(嫌がらせ)の防止策などを定めた労働施策総合推進法といった、罰則はないものの、労働局による指導や助言を受けられる法律も整備されてきています。

労働基準法の適用範囲

労働基準法は、「日本国内で行われる」事業で「労働者を使用する」ものであれば、その種類を問わず適用されます。例えば、外国の会社が日本国内で事業を行っていても、日本の労働基準法が適用されます。ただし、外国大使館や米軍基地など、特別な法律や国際条約で定めがある場合は、この限りではありません。

労働基準法が適用される単位は、会社全体ではなく、「事業所ごと」に判断されます。例えば、本社、工場、支社などがそれぞれ一つの事業所として扱われます。しかし、同じ場所にあっても、雇用管理や仕事内容が大きく異なる部門がある場合や、物理的に離れていても規模が非常に小さく、独立した事業所とは言えない出張所などは、例外的にまとめて扱われることがあります。

労働基準法の全13章の構成と主な内容

労働基準法には、私たちが安心して働くための様々なルールが詰まっています。全部で13章ありますが、ここでは特に重要なポイントを絞ってご紹介します。

第1章:総則(全体の基本的な考え方)

この章では、労働基準法の基本的な考え方を説明しています。労働条件は、労働者が人間らしい生活を送るために必要なものでなければならないとされています。ここで言う「労働条件」とは、賃金、労働時間、退職、災害時の補償、会社の寮など、職場におけるすべての待遇を含みますが、雇い入れ(採用)は含まれません。

また、「労働条件は、労働者と会社が対等な立場で決めるべきものである」という大切な考え方も示されています。これは、現実には会社の立場が強いことが多いので、その不平等をなくすための重要な理念です。労働条件は、主に次の3つの方法で決められます:

  • 労働協約: 労働組合が会社と交渉して結ぶ約束事で、組合員に対して最も強い効力があります。
  • 就業規則: 会社のルールブックのことで、賃金や労働時間、職場の規律などを詳しく定めており、その事業所全体の従業員に適用されます。
  • 労働契約: 働く人一人ひとりの労働条件を具体的に決める個別の契約です。

このように、いくつかの方法で労働条件を決めることで、ルールが公平に決められ、労働契約の平等性が保たれる仕組みになっています。

差別の禁止として、使用者は、労働者の国籍、信条(思想や宗教)、社会的身分を理由に、お給料、労働時間、その他の労働条件で差別をしてはいけません。また、女性であることを理由に賃金で差別することも禁止されています。

強制労働の禁止(第5条)は、労働基準法の中で最も重い罰則がある規定です。会社は、暴行、脅迫、監禁などの手段を使って、労働者の意思に反して労働を強制してはなりません。

中間搾取の排除(第6条)は、法律で許される場合を除き、何人も、人の就職に介入して利益を得てはいけないというルールです。労働者派遣の事業は、人材を供給するのではなく、サービスを販売するものなので、この「介入」にはあたりません。

公民権行使の保障(第7条)とは、労働者が勤務時間中に、選挙権などの国民としての権利を行使したり、公的な仕事(裁判員など)をするために時間が必要な場合、会社はそれを拒否してはならないというルールです。ただし、仕事に支障がなければ、会社は時間の変更をお願いすることができます。この時間に対するお給料は、特に会社のルール(就業規則など)で定めがない限り、「ノーワーク・ノーペイの原則」(働かなければ賃金は発生しない)により、会社に支払い義務はありません。

第2章:労働契約(会社と働く人の約束事)

この章では、働き始めるときに会社と交わす「労働契約」について詳しく定めています。

  • 契約期間(第14条): 労働契約は、特別な場合を除き、原則として3年を超える期間で結んではいけません(ただし、労働者が専門的な知識や技術を持つ場合、または60歳以上の場合は、5年を超えない期間での契約が可能)。
  • 労働条件の明示(第15条): 会社は、労働契約を結ぶときに、賃金や労働時間、働く場所、仕事の内容、契約期間、契約の更新の有無と基準、そして退職に関するルール(解雇の理由も含む)など、特に重要な労働条件を必ず書面で示す義務があります。もし、明示された労働条件が事実と違っていた場合、労働者はすぐに労働契約を解除することができます。労働者が就業のために住所を変更しており、契約解除から14日以内に帰郷する場合は、会社は必要な旅費を負担しなければなりません。
  • 違約金等の禁止(第16条): 会社は、労働者が労働契約に違反した場合に、あらかじめ違約金を決めたり、損害賠償の金額を予定するような契約をしてはいけません。これは、労働者が不当に会社に縛られるのを防ぐためです。
  • 前借金との相殺禁止(第17条): 会社が、働くことを条件にお金を貸し付け、その借金を毎月の賃金から一方的に差し引いて返済させることは禁止されています(本条は前貸金の貸付を禁止しているのではなく、賃金との相殺を禁止しています)。
  • 強制貯蓄の禁止(第18条): 会社は、労働契約に付随して貯蓄を強制すること、また労働者のお金を会社が管理する契約をしてはいけません。ただし、労働者の意思に基づき、労働者の過半数を代表する者との書面による協定を結び、ルールを定めて周知していれば、会社が貯蓄金を預かる「社内預金」は一定の要件のもとで認められています。

第3章:賃金(お給料について)

この章は、私たちのお給料(賃金)に関する重要なルールを定めています。

  • 賃金の定義(第11条): 賃金とは、お給料、手当、ボーナスなど、名前が何であれ、労働の対価として会社が労働者に支払うすべてのものを指します。ただし、実費を補うもの(交通費の実費など)や、休業補償(平均賃金の60%を超える部分)、解雇予告手当、ストックオプションなどは賃金には含まれません。
  • 平均賃金(第12条): 平均賃金は、解雇予告手当や休業手当、年次有給休暇の賃金など、労働基準法で様々な金額を計算する際の基準となる大切な概念です。原則として、算定事由の発生した日以前3ヶ月間にその人に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額とされます。
  • 賃金支払いの5原則(第24条): お給料は、以下の5つの原則に従って支払われなければなりません:
    1. 通貨払い: 原則として現金で支払うこと。ただし、労働者が同意すれば銀行振込も可能です。2023年4月以降は、労働者の同意と労使協定があれば、厚生労働大臣が指定するQRコード決済などのデジタルマネーで支払うことも可能になりました。ただし、現金化できないポイントや仮想通貨での支払いは認められません。
    2. 直接払い: 労働者本人に直接支払うこと。未成年者であっても親に支払うことはできません。
    3. 全額払い: 賃金は全額を支払うこと。所得税や社会保険料など、法律で定められたものを差し引く場合や、労働者の過半数を代表する者と書面で協定を結んでいる場合を除いて、勝手に差し引いて支払うことは禁止されています。
    4. 毎月1回以上: 賃金は、毎月1回以上支払うこと。
    5. 一定期日払い: 毎月決まった日に支払うこと。ただし、臨時の賃金やボーナスは例外です。
  • 非常時払い(第25条): 労働者が、出産、病気、災害など、厚生労働省令で定められた非常の場合の費用にあてるために請求した場合、会社は、たとえ給料日よりも前であっても、すでに働いた分の賃金を支払わなければなりません。
  • 休業手当(第26条): 会社側の責任で休業させた場合、会社は休業期間中、その労働者に平均賃金の60%以上の手当を支払わなければなりません。ここでいう「会社側の責任」とは、一般的な過失責任だけでなく、会社側の経営や管理上の理由による障害も広く含まれます。
  • 出来高払制の保障給(第27条): 出来高払制(仕事の成果に応じて給料が決まる制度)で働く人に対しては、会社は労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければなりません。これは、成果が出なかった場合に、労働者が無給や低賃金になるのを防ぐためのルールです。
  • 最低賃金(第28条): お給料の最低基準については、「最低賃金法」という別の法律で定められています。

第4章:労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇(働く時間、休みのルール)

労働者の健康を守るため、労働時間、休憩、休日について厳格なルールが定められています。

  • 労働時間(第32条): 会社は、労働者に、休憩時間を除いて1週間で40時間を超えて、また1日で8時間を超えて働かせてはなりません。「労働時間」とは、労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間を指し、実際に作業していなくても、待ち時間や休憩中の電話当番なども労働時間とみなされることがあります。
  • 休憩(第34条): 働く時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければなりません。休憩時間は、労働者が自由に利用できるものでなければならず、電話番などの業務を命じられている場合は休憩時間とはみなされません。原則として、休憩は一斉に与えることになっていますが、労使協定を結べば、一斉に与えなくても良いという例外も認められます。
  • 休日(第35条): 会社は、労働者に、毎週少なくとも1回の休日を与えるか、または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。「休日」とは、働く義務がない日のことで、原則として午前0時から午後12時までの24時間を指します。もし、事前に休日を他の日と交換する「休日の振替」を行った場合、その日は法定休日ではなくなるため、休日割増賃金の対象外となります。
  • 時間計算(第38条): 労働者が複数の事業所で働く場合でも、労働時間は通算して計算されます。また、鉱山などの地下での労働(坑内労働)については、坑口に入った時刻から出た時刻までを休憩時間も含めて労働時間とみなす「坑口計算制」が適用されます。
  • 労働時間及び休憩の特例(第40条): 商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業など、一部の業種で常に10人未満の労働者を使っている事業所では、1週間の労働時間を44時間までとすることができます(週44時間制)。
労働時間の特別な制度(例外規定の全体像)

法律で定められた労働時間を守りつつ、会社の忙しさや仕事の性質に合わせて柔軟に対応できるよう、労働時間にはいくつかの例外的な制度が設けられています。

    1. 労働日や時間を柔軟に組み合わせる「変形労働時間制」:
      • 1ヶ月単位の変形労働時間制(第32条の2): 1ヶ月以内の期間で、1週間の平均労働時間が法定労働時間を超えないようにすれば、特定の日や週に8時間や40時間を超えて働かせることができます。
      • フレックスタイム制(第32条の3): 労働者が、自分で仕事の開始時刻と終了時刻を決められる制度です。3ヶ月以内の「清算期間」で平均して1週間の労働時間が法定労働時間を超えない範囲であれば、ある日は長く、別の日は短く働くことが可能です。
      • 1年単位の変形労働時間制(第32条の4): 1ヶ月を超え1年以内の期間で、1週間の平均労働時間が40時間を超えないようにすれば、忙しい時期は長く、そうでない時期は短く働くことができます。
      • 1週間単位の非定型的変形労働時間制(第32条の5): 小売業や旅館、飲食店など、日によって仕事量が大きく変わる一部の事業所で、常に30人未満の労働者を使用する場合に限り、労使協定により1日10時間まで働かせることが可能です。
    2. 労働時間を延長する「時間外労働・休日労働」:
      • 臨時の必要がある場合(第33条): 災害など、やむを得ない事情で緊急に必要な場合、行政官庁の許可を得て、必要な範囲で労働時間を延長したり、休日に働かせたりすることができます。
      • 法定労働時間を超える労働(36協定): 法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合には、あらかじめ従業員の過半数代表者または労働組合との間に、「時間外労働・休日労働に関する協定」を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません(労働基準法第36条)。この協定は「36協定(サブロク協定)」と呼ばれています。36協定により延長できる労働時間の上限は、原則として月45時間、年360時間です。会社が労働者に時間外労働をさせた場合には、通常の賃金に加えて以下の割増賃金を支払わなければなりません:
        • 法定労働時間を超えて働かせた時(時間外労働)は25%以上増し
        • 法定休日に働かせた時(休日労働)は35%以上増し
        • 午後10時から午前5時までの深夜に働かせた時(深夜労働)は25%以上増し。1ヶ月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増賃金が必要です。
    3. 労働時間を「みなし」たり「適用除外」したりする制度:
      • 事業場外みなし労働時間制(第38条の2): 労働者が会社の外で仕事をし、労働時間の計算が難しい場合、原則として定められた時間(所定労働時間または通常必要とされる時間)を働いたものとみなされます。
      • 専門業務型裁量労働制(第38条の3): 専門性の高い仕事で、労働者の裁量に仕事の進め方や時間の配分を大きく委ねる必要がある場合に適用されます。この制度が適用されると、実際に働いた時間にかかわらず、労使協定で定めた時間を働いたものとみなされ、その時間に基づいて賃金が支払われます。
      • 企画業務型裁量労働制(第38条の4): 事業運営に関する企画、立案、調査、分析業務で、労働者の裁量に大きく委ねる必要がある場合に適用されます。この制度が適用されると、実際に働いた時間にかかわらず、労使委員会の決議で定めた時間を働いたものとみなされ、その時間に基づいて賃金が支払われます。
      • 労働時間等の適用除外(第41条): 農林業、畜産業、養蚕業、水産業に従事する人、会社の管理職(管理監督者)や秘密の事務を扱う人、監視業務や断続的な労働に従事し許可を得た人には、労働時間、休憩、休日に関する一部規定が適用されません。これらの労働者には、原則として労働時間の上限規制、休憩時間の付与義務、休日に関する規定が適用されなくなるため、働く時間や休みを個々の状況や業務の性質に応じて柔軟に設定できるようになります。ただし、深夜労働に関する割増賃金の規定は原則として適用されます。
      • 高度プロフェッショナル制度(第41条の2): 高度な専門知識を持ち、成果が労働時間に直結しない特定の業務に従事し、年収1,075万円以上などの要件を満たす場合に適用されます。この制度が適用されると、労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金に関する規定が適用されなくなります。
年次有給休暇(有給休暇のこと)

労働者が心身の疲れを回復させ、仕事とプライベートのバランスを取るための大切な休暇です。

      • 付与される条件: 会社に雇われてから6ヶ月間続けて働き、かつ、会社の全労働日の8割以上出勤した場合、10日間の有給休暇が与えられます。働く期間が長くなるにつれて、もらえる日数は増えていき、最大で20日になります。
      • 取得理由: 有給休暇は、心身を休ませるためや、趣味や旅行などプライベートで利用するためなど、基本的に利用目的を問われることなく取得できます。
      • 時季変更権: 労働者が指定した日に有給休暇を取ることが「会社の正常な運営を妨げる場合」に限り、会社は労働者に「別の日にお願いします」と変更を求めることができます(時季変更権)。
      • 計画的付与(第39条第6項): 労働者の過半数を代表する者との労使協定を結べば、有給休暇が5日を超える部分について、会社があらかじめ時季を指定して、計画的に有給休暇を取らせることができます。
      • 会社からの時季指定義務(第39条第7項): 年間10日以上の有給休暇が与えられる労働者については、会社は5日について、労働者ごとに時季を指定して有給休暇を取らせる義務があります。ただし、労働者自身が時季を指定して取得したり、計画的付与によって既に5日以上取得している場合は、会社が時季指定をする必要はありません。
      • 不利益な取り扱いの禁止: 会社は、有給休暇を取得した労働者に対して、賃金を減らしたり、人事評価で不利に扱ったりするなどの不利益な取り扱いをしてはいけません(これは努力義務とされています)。

第5章:安全及び衛生

労働基準法における「第5章 安全及び衛生」については、1972年(昭和47年)に、この章と関連する法律の規定が統合され、新たに労働安全衛生法が制定・施行されました。そのため、労働基準法にはこの章の条文のほとんどが引き継がれて削除され、現在はごく一部の規定のみが残されています

このため、労働者の安全と健康に関する詳しいルールは、主に労働安全衛生法という別の法律で定められています。

第6章:年少者

この章では、未成年者である年少者と、妊娠中または出産後の女性(妊産婦)に関する特別な保護規定を定めています。これらの規定は、身体的発達段階や健康状態に配慮し、一般の労働者とは異なる基準を設けることで、弱い立場にある労働者を守ることを目的としています。

  • 年少者の最低年齢(第56条): 会社は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、働かせてはなりません。ただし、例外的に、健康や福祉に有害でなく軽易な仕事であれば、許可を得て満13歳以上の児童を修学時間外に働かせることが可能です
  • 未成年者の労働契約(第58条、第59条): 親権者や後見人が未成年者に代わって労働契約を結ぶことは禁止。契約が不利な場合は解除可能。未成年者自身が賃金を請求できます。
  • 年少者の労働時間と休日(第60条): 満18歳未満の年少者には、変形労働時間制や36協定などの規定は適用されません。児童は修学時間含め週40時間、1日7時間が上限です。
  • 年少者の深夜業(第61条): 満18歳未満の者を午後10時から午前5時まで働かせてはなりません。児童は午後8時から午前5時までが原則禁止です。
  • 危険有害業務の就業制限(第62条): 満18歳未満の者には、危険な機械作業や重量物取り扱い、有害な場所での業務などをさせてはなりません。
  • 年少者の帰郷旅費(第64条): 解雇後14日以内に帰郷する場合、会社は旅費を負担します(自己責任による解雇で認定を受けた場合は除く)。

第6章の2:妊産婦等

  • 妊産婦の坑内・危険有害業務の就業制限(第64条の2、第64条の3): 妊娠中や産後1年以内の女性を坑内業務や重い物、有害ガス発生場所での業務に就かせはなりません。
  • 産前産後休業(第65条): 出産予定6週間前(多胎14週間前)から休業請求可能。出産後8週間は就業禁止。
  • 妊産婦の労働時間等の制限(第66条): 妊産婦が請求した場合、変形労働時間制の規定にかかわらず、週40時間、1日8時間を超えて働かせたり、時間外・休日・深夜労働をさせたりしてはなりません。
  • 育児時間(第67条): 生後1年未満の子を育てる女性は、1日2回各30分の育児時間を請求できます。
  • 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置(第68条): 生理日で就業が困難な女性が休暇を請求した場合、会社は就業させてはなりません(有給義務なし)。
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第7章:技能者の養成

この章では、技能の習得を目指す労働者(徒弟、見習いなど)の保護と、職業訓練に関する特別な取り扱いについて定めています。

  • 徒弟制度の弊害排除(第69条): 会社は、技能習得を目的とする労働者を酷使したり、技能習得に関係ない作業に従事させたりしてはなりません。
  • 職業訓練に関する特例(第70条〜第73条): 会社が「職業能力開発促進法」という別の法律に基づいた、国が認めた職業訓練を労働者に受けさせる場合、その訓練に必要な範囲で、労働基準法の一部のルールを少し緩めることができます。例えば、働く期間の長さ、未成年者や妊娠中・出産後の女性が危険な仕事や地下の仕事に就くことの制限などについて、特別な省令が出せる場合があります。ただし、特に危険な地下の仕事に関しては、16歳未満の未成年者にはこの特例は一切適用されません。これらの特別なルールは、行政の許可を得た会社でしか使えず、会社がルールを守らなければ許可が取り消されることもあります。
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第8章:災害補償(仕事中の事故や病気の補償)

この章では、労働者が仕事中や通勤中に負傷したり病気になったりした場合、あるいは障害を負ったり死亡したりした場合に、会社がどのような補償を行うべきかを定めています。

  • 療養補償(第75条): 業務上の負傷や病気の治療費を会社が負担します。
  • 休業補償(第76条): 療養のため働けない期間、平均賃金の60%を会社が支払います。
  • 障害補償(第77条): 治療後に障害が残った場合、障害の程度に応じ、平均賃金に一定日数を乗じた額を会社が支払います。
  • 休業補償および障害補償の例外(第78条): 労働者の重大な過失が認定された場合、補償を行わない場合があります。
  • 遺族補償(第79条): 業務上死亡した場合、遺族に平均賃金の1000日分を支払います。
  • 葬祭料(第80条): 業務上死亡した場合、葬儀を行う人に平均賃金の60日分を支払います。
  • 打切補償(第81条): 療養開始3年後も治らない場合、平均賃金の1200日分を支払うことで、以降の補償責任が免除されます。
  • 他の法律との関係(第84条): 労災保険など別の法律で補償が行われる場合、会社の補償責任は免除されます。
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第9章:就業規則(会社のルールブック)

就業規則は、会社が職場の労働条件や守るべきルールなどを統一的に定めたものです。

  • 作成と届出の義務(第89条): 常時10人以上の労働者を使う会社は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出る義務があります。
  • 作成の手続き(第90条): 作成や変更時には、労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります。
  • 制裁規定の制限(第91条): 減給の制裁には上限があります(1回の額は平均賃金の1日分の半額、総額は1賃金支払い期間の賃金総額の10分の1)。
  • 周知の義務(第106条): 作成または変更された就業規則は、労働者全員がいつでも内容を確認できるよう周知しなければなりません。
  • 法令・労働協約優先: 就業規則の内容は、法律や労働組合との約束(労働協約)に違反してはいけません。
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第10章:寄宿舎(会社が提供する寮などのルール)

この章では、会社が労働者に提供する寮や宿泊施設(事業の付属寄宿舎)に関するルールを定めています。

  • 寄宿舎生活の自治(第94条): 会社の干渉を受けず、私生活の自由や役員選任の自治が保障されます。
  • 寄宿舎規則の作成と届出(第95条): 会社は寄宿舎規則を作成し、行政官庁に届け出る義務があります。規則の作成・変更には、居住労働者の過半数を代表する者の同意が必要です。
  • 寄宿舎の設備と安全衛生(第96条): 会社は換気、採光、清潔、避難など、労働者の健康・安全に必要な措置を講じなければなりません。
  • 監督上の行政措置(第96条の2、第96条の3): 寄宿舎の設置・移転・変更計画は行政官庁に届け出が必要で、安全衛生基準違反があれば、使用停止などの命令が出されることがあります。
    •  

第11章:監督機関(法律が守られているかチェックする機関)

この章では、労働基準法がきちんと守られているかを確認し、違反を取り締まる機関とその権限について定めています。

  • 労働基準監督署: 厚生労働省の一部門で、労働基準法をはじめとする労働関係の法律に違反がないか調査・指導を行い、必要に応じて逮捕・送検も行う行政機関です。
  • 労働基準監督官の権限と義務(第101条、第102条、第103条、第105条): 事業場への立ち入り、帳簿書類の提出要求、質問が可能。法律違反については司法警察官の職務を行います。職務上知り得た秘密は漏洩禁止です。
  • 監督機関に対する申告(第104条): 労働者は法律違反の事実を行政官庁や労働基準監督官に申告でき、会社はこれを理由に不利益な取り扱いをしてはなりません。
  • 報告等(第104条の2): 行政官庁や労働基準監督官は、必要に応じて報告を求めたり、出頭を命じたりすることができます。
    •  

第12章:雑則(その他細かいルール)

この章には、これまでの章には分類されない、しかし労働基準法の運用上重要な細かいルールがまとめられています。

  • 帳簿等の作成と保存(第107条、第108条): 会社は労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、有給管理簿などの帳簿を作成し、原則5年間保存する義務があります(当面3年)。
  • 付加金(第114条): もし会社が、解雇予告手当や割増賃金などを支払わない場合、裁判所は未払い額の最大2倍の付加金の支払いを命じることができます。
  • 時効(第115条): お給料の請求権(退職金除く)や付加金の請求権は3年、退職金請求権は5年で時効となります。
    •  

第13章:罰則(法律を破った場合の罰則)

この章では、労働基準法に違反した場合に、会社(使用者)やその関係者に対してどのような罰則(懲役や罰金)が科されるかを定めています。

  • 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金:
    • 強制労働の禁止(第5条)など、最も重大な違反に適用されます。
    • 1年以下の懲役または50万円以下の罰金:
    • 中間搾取の排除(第6条)、最低年齢違反(第56条)、年少者・妊産婦の坑内労働禁止(第63条、第64条の2)などに適用されます
  • 6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金:
    • 均等待遇(第3条)、男女同一賃金(第4条)、公民権行使の保障(第7条)などに適用されます。
  • 30万円以下の罰金:
    • 労働条件の明示(第15条)、賃金支払いの原則(第24条)、労働時間・休憩・休日(第32条、34条、35条)、36協定違反(第36条)、割増賃金不払い(第37条)、年少者・妊産婦の保護規定違反(第60条〜68条)、災害補償の不履行(第75条〜81条)、就業規則の作成・届出・周知義務違反(第89条、106条)、帳簿等の保存義務違反(第107条、108条)など、幅広い違反に適用されます。
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これらの罰則は、労働基準法が労働者の権利を保護するための強力な手段であることを示しています。会社はこれらの規定を遵守する義務があり、違反した場合には法的な責任を問われることになります。

まとめ

労働基準法は、私たち働く一人ひとりが人間として尊重され、安心して生活を送るための基盤となる法律です。一見複雑に見えるかもしれませんが、自分の身を守るために、その基本的な内容を知っておくことは非常に重要です。

もし、ご自身の労働条件に疑問を感じたり、会社との間で労働に関する問題が発生したりした場合は、決して一人で抱え込まず、専門の機関に相談することが大切です。

監修者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。

単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。 また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようにお願いいたします。

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