「受動的な人(Xタイプ)」「能動的な人(Yタイプ)」に分かれるのはなぜ?〜XY理論とタックマンモデルの組織論から読み解く人間行動〜
「この人は指示しないと動かないな……」
「信頼して任せたら、思った以上に力を発揮してくれた!」
現場で人をマネジメントしていると、“指示待ちで受動的な人(Xタイプ)”と“積極的にで能動的な人(Yタイプ)”に分かれるように感じることはありませんか?
本記事では、マクレガーのXY理論を軸に、「なぜ人はXにもYにもなるのか?」という問いを、組織内の関係性・構造・人間観の視点から立体的に掘り下げていきます。
1. マクレガーのXY理論とは?
1960年代にダグラス・マクレガーによって提唱された「XY理論」は、人間観の違いがマネジメントスタイルを分けるという考え方です。
● X理論:性悪説に基づいた人間観
- 人は本来、怠け者で、責任を避けたがる。
- 強制や監視がなければ仕事をしない。
- 上司の役割は“命令と統制”。
● Y理論:性善説に基づいた人間観
- 人は本来、仕事にやりがいを感じ、成長したがる。
- 自ら責任を取り、創造的な行動を起こせる。
- 上司の役割は“支援と環境整備”。
これを簡単に言えば、X理論=性悪説、Y理論=性善説に近い考え方であると捉える事ができます。
2. 「Xの人」「Yの人」に本当に分かれているのか?
結論から言えば、人が「X的」または「Y的」になるかは、生まれつきの性格ではなく、環境や関係性の結果です。
マクレガーは「人はY的な存在になれる」と考えており、Y的にふるまうかどうかは、上司や組織がどんな前提を持って接しているかに大きく左右されると述べています。
3. 期待が人をつくる:ピグマリオンの法則
「君ならできると思って任せたよ」という言葉をかけられたときと、「失敗しないようにちゃんと見張ってるよ」と言われたときでは、人の行動はどう変わるでしょうか?
これは「ピグマリオン効果(期待が成果を引き出す)」とも呼ばれます。
人は他者からどう見られているかを無意識に感じ取り、それに沿った行動をとるようになります。
- 「お前は怠け者だ」と思われれば、言われたことしかしないX的行動に。
- 「あなたなら任せられる」と信頼されれば、自ら考え挑戦するY的行動に。
このように、「Xの人」「Yの人」は組織側の接し方・関係性の築き方次第で変わるのです。
4. XY理論とチーム発達段階(タックマンモデル)
ここで、関係性の発展段階に注目してみましょう。
アメリカの心理学者タックマンは、チームの成長を5つの段階に分けた「チーム発達モデル(Tuckman Model)」を提唱しました。
フェーズ | 特徴 | 行動傾向 |
---|---|---|
Forming(形成期) | 探り合い・遠慮・他人任せ | X的:受動的 |
Storming(対立期) | 衝突・不満・立場争いが起こる | X/Yの分岐点 |
Norming(規範期) | 信頼構築・役割明確化 | Y的:自律的 |
Performing(成果期) | 高い自律性と協力によって成果を最大化 | 完全にY的 |
Adjourning(解散期) | 成果を振り返り、感謝と次の挑戦へ | 終結と成長 |
特に重要なのが「Storming→Norming」への移行です。
この段階で管理者がどう関わるかによって、X理論の世界に落ちるか、Y理論の世界へ昇っていけるかが決まります。
5. 組織設計と制度が人をX化/Y化させる
人の行動は関係性だけでなく、組織構造や評価制度の影響も大きいです。
組織の設計 | 人への影響 | 行動傾向 |
---|---|---|
命令型・ピラミッド型 | 忖度・指示待ちが多くなる | X化 |
自律分散・ティール型 | 自発性・創造性が発揮されやすい | Y化 |
短期成果主義 | 内面動機が削られ、表面的になる | X化しやすい |
成長支援・対話重視 | 成果+成長に向かう行動が促される | Y化が進む |
管理職がいくら信頼していても、組織の評価制度が「数字だけ」で人を見ているなら、部下は“監視されている”と感じ、X的にふるまうようになるのです。
6. XY理論 × タックマン × 組織構造の統合マップ
人の行動傾向は、以下の3つの要素が相互作用して形成されます。
レイヤー | 内容 | X化する条件 | Y化する条件 |
---|---|---|---|
人間観 | 信じるか、疑うか | 性悪説(管理前提) | 性善説(支援前提) |
関係性(チーム) | チームの成長段階 | 対立期の固定化(Storming) | 信頼・成果発揮期(Performing) |
組織制度 | 評価・設計 | 命令型・短期成果主義 | 自律分散型・長期育成志向 |
この3点が整えば、人は自然とY的になります。逆に1つでもズレがあると、X的な行動が表面化しやすくなります。
7. 私たちはどうすればY的な人を育てられるのか?
人を育てるということは、人を信じ、関係性を育て、制度を整えることです。
🔑 ポイントは次の3つです:
- 信じて任せる「前提」を変える
- 「信用に値するか?」ではなく、「信じることから始める」
- 安全で対話できる関係性をつくる
- ときに衝突を受け入れ、対話を促す「ストーミング」を乗り越える
- 人の成長を引き出す制度に変える
- 評価軸を成果+プロセスにし、自己効力感を支援する
8. おわりに:Yの人は“つくれる”
「この人はXタイプだから変わらない」
そう考えてしまいたくなる場面もあります。
でも、人は変わります。
変わるには、「信頼」「関係性」「構造」の3つが揃っていることが必要です。
💬 最後に、現場で悩む皆さまへ
- X的に見える人も、Y的な行動をとる可能性を秘めています。
- マネジメントとは、「信じてみる勇気」を持つことから始まります。
- あなたのその一歩が、組織全体をY的に変える大きな力になります。
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。
単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。 また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようにお願いいたします。