ティール組織:次世代型組織モデルの全貌
従来の組織論を覆す革新的なマネジメント手法とその実践

はじめに
21世紀の企業経営において、従来のヒエラルキー(階層構造)型組織では対応できない課題が次々と浮上している。急速な社会変化、多様化する価値観、働き方改革への対応、そして従業員のエンゲージメント向上—これらの課題を解決する新たな組織モデルとして注目されているのが「ティール組織」である。
2014年にフレデリック・ラルー氏が著した『Reinventing Organizations』(邦訳版『ティール組織』2018年英治出版)によって世界的に知られるようになったこの組織論は、単なる経営手法を超えて、人間の意識進化と組織の進化を結びつけた革新的な考え方として、世界中の経営者や組織運営者から注目を集めている。
本記事では、ティール組織の基本概念から実践的な運用方法、成功事例、そして日本企業での実現可能性まで、包括的に解説する。
第1章:ティール組織とは何か
1.1 ティール組織の定義
ティール組織とは、社長や上司が監督や干渉をしなくても、組織の目的実現に向けて、従業員ひとりひとりが主体的に動き、推進できている組織のことを指す。従来の組織が管理職による部下の統制(ヒエラルキー)によって成り立っていたのに対し、ティール組織では組織は従業員全員のものであると考え、ヒエラルキーは存在せずそれぞれが対等な関係であるため、従業員ひとりひとりに意思決定権がある点が特徴的である。
ティール組織における存在目的は環境変化に応じて進化すると考えられ、組織を「一つの生命体」として捉え、組織目標を達成するためにできることと、個人の目標達成のためにすべきことが一致しているため、従業員は自主的に業務に取り組むことが可能になるのである。
1.2 ティール組織誕生の背景
ティール組織が注目される背景には、現代社会の構造的変化がある。オレンジの組織には、柔軟性や対応力があることが特徴です。しかし、つねに変化する環境に対応するために競争を続けることが求められます。つまり過剰な労働を続けることを助長しやすい組織なのです。
成果を第一に求め続けた結果、組織のメンバーの過重労働につながり、個人の生活の充実といった「人間らしさ」の部分が失われてしまうことが社会問題にもなりました。このような状況がビジネスにおけるモチベーションの欠如や新しい発想の枯渇を生むことになることに気づき、企業や社会は「働き方改革」として現状を見直す必要性を認めることになりました。
1.3 フレデリック・ラルー氏の洞察
フレデリック・ラルー氏は長年組織改革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザーやファシリテーターとして独立した人物。その彼が世界中の組織を調査し、新しい組織モデルについての考察をまとめたのが『Reinventing Organizations』です。
ラルー氏の研究が他の組織論と異なる点は、ティール組織がいままでのマネジメントにおいて常識とされていた考え方や組織構成とはまったく異なる内容を示したものでありながら、ティール組織を構築することで成果をあげた事例が数多く現れたことにある。
第2章:組織進化の5段階モデル

2.1 意識進化と組織進化の関係
フレデリック・ラルー氏は、組織形態について「人類の意識の発達とともに、組織形態も変化している」とし、組織の進化を5つの段階に分類した。思想家ケン・ウィルバーが提唱したインテグラル理論では、意識の発達段階をそれぞれ色で識別している。本書ではそれに則り、組織モデルを色で表現する。
2.2 レッド(衝動型)組織
赤の組織は組織モデルのなかでもっとも原始的な形であるといえます。ひとりの圧倒的な力を持つ者が支配者となり、組織のメンバーを力と精神的な恐怖でまとめています。
特徴:
- この組織が重視しているのは、目の前の利益です
- 中長期的な目標に向けて行動し、プロセスを踏んで継続的に組織を運営するというよりは、短絡的で衝動的な行動によって、今すぐに手に入る利益を求める傾向にあります
- 個人の力に依存するため、再現性がない組織形態とも言えます
- 短期志向でマフィアの世界に多く見られる
2.3 アンバー(順応型)組織
この琥珀の組織は、階層的構造(ヒエラルキー)を持つ組織です。このような組織には階級や制度が徹底的に組み込まれていることが多く、組織を構成しているメンバーの上下関係によって秩序が保たれています。
特徴:
- メンバーは組織における自分の役割にしたがって行動することを優先させ、自発的に意見を出したり、組織が向かうべき方向性や目的達成までのプロセスに対して、よりよいアイデアを提案したりすることはほとんどありません
- トップダウンで指示が出され、ルール通りの行動をおこなうことで安定した組織運営ができるのが特徴です
- 秩序が重んじられるあまり、新しい意見やアイデアが生まれにくく、変化の激しい時代や競争他者の多い場合には対応ができないという面もあります
- 軍隊、行政組織によく見られる
2.4 オレンジ(達成型)組織
オレンジの組織は、階層的構造(ヒエラルキー)は基本にあるものの、柔軟に社会変化や環境に適応するために変化することができる組織だといえます。日本社会においては一般的な組織モデルだといえるでしょう。
特徴:
- 組織としての成果をあげるために、組織のメンバーが才能を活かして活躍をし、成果をあげれば昇進できるという特徴があります
- 組織の成果をあげることが第一であるため、効率化が図られ、そのための数値管理が徹底されているのも特徴です
- そうした環境のなかで仕事をするうえでは、成果をあげるための生存競争が激化したり、過重労働が常態化したりするといった労働問題が発生する可能性が高いという面もあります
- 圧倒的に多くの民間企業で見られる形態だ
2.5 グリーン(多元型)組織
グリーンの組織は、オレンジの組織が目的達成を第一とした合理的な組織であったのに対して、メンバーがより主体性を持って行動することができる組織です。
特徴:
- この組織では意思決定のプロセスもボトムアップ式であるのが特徴です
- 緑の組織におけるリーダーは、メンバーがより働きやすくなるように環境を整える役割を担います
- メンバーの個性、多様性が認められているとはいえ、緑の組織においても組織内の決定権はマネジメント側にあるといえます
- 従業員の個性や多様性が認められ、互いを尊重し合う組織のため、心理的安全性が担保されやすいのが特徴で、意見を出しやすい環境ではありますが、合意形成に時間がかかるという問題があります
2.6 ティール(進化型)組織
ティールとは「青緑色」を指します。この青緑の組織には、権力を集中させたリーダーは存在せず、現場においてメンバーが必要に応じて意志決定をおこなうことが特徴です。
特徴:
- メンバーが組織の目的をはっきりと理解し、組織の使命を果たすための行動ができなくてはなりません
- ティール組織におけるメンバーは、それぞれが対等(フラットな関係)であり、組織はメンバー全員のものであると考えます
- 「組織の社会的使命を果たすために自分ができること」と「自分自身の目標達成のための行動」が一致しているため、メンバーは自主的に成長をしながら、活動することが可能なのです
- 組織自体が社長や株主のものではなく、ひとつの生命体としてメンバーが関わり、進化する目的を実現するために関係し合っていく組織形態です

第3章:ティール組織の3つの要素(ブレークスルー)
ティール組織が機能するためには、従来の組織モデルから3つの重要な「ブレークスルー(突破口)」を果たす必要がある。
3.1 エボリューショナリーパーパス(進化する目的)
「存在目的」と訳されるものです。「なんのためにこの組織は存在するのか」をメンバー全員が理解し、追求することが重要です。
従来組織との違い: 従来の組織では、組織の存在目的や将来のビジョンは固定化されたものでした。ティール組織では、組織として成し遂げたいことなど、組織の存在目的は日々進化しています。
実践のポイント:
- 組織や人材の持つ力や可能性を最大化するためには、組織が進化していく目的を常に感じ取って把握し、活動内容に反映していくことが求められます
- 社長や上司が一方的に決めるのではなく、メンバー全員で話し合って作り上げていく
- 環境変化に応じて柔軟に目的を見直し、進化させ続ける
3.2 セルフマネジメント(自主経営)
「自主経営」と訳される要素です。これはメンバーに大きな裁量が与えられることを意味し、メンバーが意思決定する権利を持っている状態といえます。
実現のための仕組み: そのために会社が保有している情報は、基本的にメンバーに対して開示され、適切な意思決定をするために他者からの助言を得られる仕組みが用意されています。
セルフマネジメントとは、ティール組織を語るうえでよく引き合いに出されるものです。ティール組織では、社長や上司からの指示や命令が無いため、メンバー全員が信念に基づき、工夫しながら自己管理し、働いていくことが必要になるため、「情報の透明化」「意思決定プロセスの権限譲渡」「人事プロセスの明確化」が必要となります。
3つの必要条件:
- 情報の透明化:評価軸などのあらゆる情報が透明化されている
- 意思決定プロセスの権限譲渡:個人の意思決定を尊重しつつ、組織からのフィードバックも受け取れる
- 人事プロセスの明確化:個人的権力が及びにくいように採用、給与、退職のプロセスが明確である
助言プロセス: 助言を与える者は、さまざまな可能性や想定されるリスクなどを踏まえ助言を行いますが、裁量権はあくまでも意思決定をするメンバー個人にあり、その判断が尊重される環境が保たれています。
3.3 ホールネス(全体性)
「全体性」と訳される要素です。ティール組織では、メンバーそれぞれがフラットな関係のなかで自分の能力や才能を発揮できなければなりません。
実現のための環境: そのためには、多様性を認め合い、自分を否定されることが無い環境であることが必要です。
ホールネスについて、書籍では「個人としての全体性の発揮」と説明され、上下関係を作らず、各個人が「本来の自分」として働くことを奨励するティール組織ならではの考え方としてあげられています。
効果: メンバーの心理的安全性を確保し、各メンバーが「この組織において自分らしく存在でき、自分の個性や才能を公平に評価され、認められる場所である」と認識することで、組織の目的と自己実現の目的が一致する可能性が高くなります。
ホールネスの考え方においては、共に働く仲間の不安や弱さにも寄り添い、全体としてセルフマネジメントを機能させることで、個々の能力が最大限発揮されるとし、ティール組織を実践している組織では人間関係を良くするトレーニングや感情の相違を扱うトレーニングなどに取り組んでいるケースもあります。

第4章:ティール組織とホラクラシーの関係
4.1 ホラクラシーとは
ホラクラシーとは、2007年に米国のソフトウェア企業の創設者であるブライアン・ロバートソン氏が提唱した組織理論で、一切のヒエラルキーを排した、フラットな組織体制のことを言います。
ホラクラシー組織とは、従来のヒエラルキー型やピラミッド型の組織とは異なり、「役割(ロール)」によって紐付けられたグループが能動的に活動する自主管理型組織を指します。
4.2 ティール組織との違い
このホラクラシーはティール組織と意味合いが似ているため、よく混同されるのですが、「ティール組織=ホラクラシー」ではありません。
ホラクラシーは組織マネジメントにおけるより具体的な組織理論のことを指しており、ティール組織の一形態という位置づけになります。
主な特徴:
- 能動的に動くチームの単位を、ホラクラシー組織では「サークル」と呼び、サークルの結成、変更、解散のルールを定めた「文書(ホラクラシー憲法)」に従って活動を行います
- ホラクラシー組織は、ティール組織に含まれる形態の1つで、「フラットで上下関係が無い組織」かつ「意思決定が分散している」自主管理型の組織であるという共通点があります
第5章:成功事例に学ぶティール組織の実践
5.1 オランダ・ビュートゾルフ(Buurtzorg)
ティール組織の成功事例としては、オランダの在宅介護支援を行う非営利団体である「Buurtzorg(ビュートゾルフ)」が知られています。
組織構造: ビュートゾルフの特徴は、マネージャーを持たない850ものチームが、目的実現に向けて独立して運営されていることです。各チームは最大12名で構成され、それぞれが目標に沿って自由に行動しています。
ITツールの活用: ビュートゾルフがティール組織として機能する1つのポイントは、「Buurtzorg Web」と名付けられた多彩な機能を持つITツールの活用です。
Buurtzorg Webの主要機能:
- コミュニティ機能: Buurtzorg Webのうちの1つであるコミュニティ機能は、チーム内やチーム間でのコミュニケーションや情報共有のために利用されています。特徴的なのは、議論を行ううえで行き詰まった場合に、コーチが補助するという仕組みを取っている点です。ただし、コーチは問題を解決するのではなく、議論を進めていく進行役に徹し、最終的に主体的に問題を解決するのはメンバーです。
- 顧客管理ツール: 顧客管理ツールとは、患者ごとの電子健康記録が登録されたデータベースのことで、診断の記録をデジタルで共有し、各メンバーの専門性をいかして、より良いサービスを提供するように取り組みます。チームの誰もが顧客のタイプや進捗状況を把握できるようになっているため、メンバーが自ら考えて行動することができます。
- ダッシュボードツール: ダッシュボードツールとは、全てのチームメンバーが患者の数や満足度、あるいはチームのコストといった組織に関する全ての情報を把握できるようになっています。従来の組織では、マネージャーにしか開示されなかった情報も含まれており、情報を全員が共有することでメンバー自身での意思決定を可能にしています。
- ビデオラーニングツール: ビデオラーニングツールとは、自主的な学習のために準備されているもので、新しく入社したメンバーであっても、動画によるラーニングで、より効率的に組織のことを学んだり、新しい知識を習得したりすることができます。
第6章:ティール組織導入の課題と対策
6.1 一般的な課題
個々がフラットな関係であり、それぞれの主体性に任された活動を認める組織であることは、混乱を招く危険性と隣り合わせでもあります。たとえば、実際に階層的構造(ヒエラルキー)組織からティール組織へと変革を進めた企業では、メンバーから「チームの連帯感がなく孤独を感じる」「誰に相談をしたらいいのかわからない」といった声が挙がったそうです。
6.2 成功の条件
ティール組織が効果的に機能するためには、メンバーの成熟度、横のつながりが重要で、そうした関係が自発的な成長を促します。
重要なのはコミュニケーション: これら3つの要素の共通項はコミュニケーションです。フラットで活発なコミュニケーションをとれる環境が確保された組織であることが、メンバーにとっても自分の存在を肯定的に捉えることができ、個性や才能を発揮できることにつながります。
6.3 段階的導入の重要性
会社組織をいきなり「ティール組織」の形態にしようとしても、できるものではありません。ティール組織を形成するためには、5つの進化の過程を経ることが必要です。進化の過程によって生み出されたものを内包していくことで、ティール組織が作られていきます。
第7章:日本企業でのティール組織実現に向けて
7.1 日本特有の課題
しかし日本企業では、重厚なヒエラルキーを持ったケースが多いため、社長や上司が監督や干渉をしないティール組織を実現するのが難しい場合もあるかもしれません。
日本の企業においては、オレンジ(達成型)の組織がもっとも一般的な構造であるといえるでしょう。多くの日本企業がオレンジ組織の段階にあるため、ティール組織への移行には時間と計画的なアプローチが必要である。
7.2 現実的なアプローチ
ですが、現状の組織の在り方に疑問を感じている場合は、ティール組織であるための要素である「進化する目的」「セルフマネジメント」「ホールネス」をもとに、ティール組織の考え方を参考にしてみると良いかもしれません。
7.3 部分的導入から始める
そして、進化過程の段階を踏むにあたって、ティール組織のブレークスルーの1要素だけでも取り入れるのも良いのではないでしょうか。
完全なティール組織を目指すのではなく、以下のような段階的なアプローチが効果的である:
- 心理的安全性の確保(ホールネスの一部実現)
- 情報透明性の向上(セルフマネジメントに向けた準備)
- 権限委譲の段階的実施
- 目的・ビジョンの共有と進化プロセスの導入
7.4 ITツールの活用
「HRBrain タレントマネジメント」は、ティール組織の運用に必要な、情報の透明化や人事プロセスの明確化を、簡単かつシンプルで使いやすい機能で実現します。
現代のティール組織実現には、適切なITツールの活用が不可欠である。ビュートゾルフの成功例が示すように、情報共有、意思決定支援、学習支援のためのデジタルプラットフォームが重要な役割を果たす。
第8章:ティール組織の限界と注意点
8.1 万能薬ではない
ティール組織として進化していくのは簡単なことではなく、実例も限られています。上司が部下に対して上意下達を行わず、セルフマネジメントで目的に向かって行動する組織を作るのは難しいものがあります。しかし、先に述べたように、ティール組織は全てに勝るというわけではありません。
8.2 組織に応じた選択
どの組織モデルが合っているかは、事業内容、組織形態、環境等によって異なり、如何にして人材の能力を最大限に引き出せるかを中心に考える必要があります。
大切なのは自分の組織が成長を続け、効果的に成果をあげられる環境を創るために、なにが必要で、なにが障害になっているのかを客観的に分析することだといえるでしょう。
そのうえで、目的を達成するために有効な組織モデルとして、ティール組織が選択肢の一つになることを意識しておくことが大切です。
8.3 規模や業種の制約
まず、ティール組織は小規模の企業やサービス業など一部の業種でなければ無理なのではないかといわれることがありますが、企業規模や業種を問われません。
しかし、実際の導入においては、業種や企業文化、既存の組織構造によって難易度が大きく異なる。特に規制の厳しい業界や安全性が最優先される業界では、完全なセルフマネジメントの実現は困難な場合がある。
8.4 組織の混在性
次に、ティール組織は従来のグリーン組織以前の組織形態を否定したものではないこと。ティール組織には明確なビジネスモデルはなく、ティール組織といわれる組織を構築していても、グリーン組織やオレンジ組織と同じ一面があったり、メンバーの中にはそうした段階の意識を持つ人もいたりします。
実際のティール組織では、異なる意識レベルを持つメンバーが共存し、状況に応じて異なる組織モデルの要素を活用することが一般的である。
第9章:ティール組織の未来展望
9.1 意識進化の継続
多元型から進化型への移行が、人類の進化においてきわめて重要だと指摘する研究者もいる。また、この進化は今後も続いていくとされる。
私たちは意識レベルが上がると、世界をより広い視点から眺められるようになる。進化型への移行が起こるのも、私たちが自分自身のエゴから自らを切り離せたときである。
9.2 内的動機への転換
エゴに埋没していると、外的な要因によって判断が左右されやすい。衝動型の観点では、自分のほしいものを獲得できるかどうかを、順応型では、社会規範への順応度を基準とする。また、達成型では効果と成功が、多元型では帰属意識と調和が判断基準となる。
これに対し、進化型では、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと移行する。「私は自分に正直になっているか」「自分がなりたいと思っている理想の人物は同じように考えるだろうか」。このように自己の内面に照らして判断するため、一見リスキーな意思決定も下すことが可能となる。
9.3 社会全体への影響
ティール組織の普及は、単に企業経営の手法を変えるだけでなく、働く人々の意識や社会全体の価値観にも大きな影響を与える可能性がある。個人の自己実現と組織の目的が調和する社会の実現に向けて、ティール組織は重要な役割を果たすと考えられる。
おわりに
ティール組織は、従来の組織論の常識を覆す革新的なモデルである。フレデリック・ラルー氏が提唱したこの組織モデルは、人間の意識進化と組織の進化を結びつけ、新しい働き方と組織運営の可能性を示している。
エボリューショナリーパーパス(進化する目的)、セルフマネジメント(自主経営)、ホールネス(全体性)という3つの要素を通じて、ティール組織は従業員一人ひとりが主体的に動き、組織全体が生命体のように進化し続ける仕組みを提供する。
オズビジョン社、ネットプロテクションズ社、ビュートゾルフなどの成功事例は、ティール組織が理論だけでなく実践的に機能することを証明している。しかし、その実現には時間と計画的なアプローチが必要であり、すべての組織に適用できる万能の解決策ではない。
日本企業においてティール組織を実現するためには、既存のヒエラルキー構造や企業文化を考慮した段階的なアプローチが重要である。完全なティール組織への移行を目指すのではなく、3つの要素の一部から取り入れ始めることで、組織の健全な進化を促すことができる。
重要なのは、ティール組織を目的とするのではなく、組織の目的達成と従業員の自己実現を両立させるための手段として捉えることである。組織の成長と個人の成長が調和する理想的な職場環境の実現に向けて、ティール組織の考え方は貴重な指針を提供している。
現代社会が直面する複雑な課題に対応するためには、従来の組織モデルだけでは限界がある。ティール組織が示す新しい組織運営の可能性を理解し、自組織に適した形で活用することが、持続可能な成長と真の働きがいのある職場づくりの鍵となるであろう。
参考文献
- フレデリック・ラルー著、鈴木立哉訳『ティール組織』(英治出版、2018年)
- フレデリック・ラルー著『Reinventing Organizations』(2014年)
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。
単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。 また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようにお願いいたします。