不当労働行為再審査事件のポイント解説
中労委平成28年(不再)第53・54号として知られる河合塾不当労働行為再審査事件は、労働法の重要な論点を含む裁判事例です。本記事では、この事件の概要、争点、判決のポイントについて解説します。
事件の概要
本件は、大手予備校を運営する学校法人(以下、甲法人)が非常勤講師Bと締結していた出講契約(業務委託契約)を、平成26年度以降締結しなかったことをめぐる不当労働行為事件です。Bは甲法人内で結成された労働組合(以下、A組合)の書記長を務めていましたが、以下の理由から契約を更新されませんでした。
- 労働契約法改正パンフレットを甲法人校舎内で無許可配布
- 甲法人関連会社校舎内でA組合のビラを無断配布
この状況に対し、A組合は甲法人の行為が労働組合法7条に規定される不当労働行為(不利益取扱い、支配介入、団体交渉拒否)に該当するとして救済を申立てました。
主な争点
本件の争点は以下の5点です:
- Bが労働組合法上の労働者に該当するか
- 業務委託契約を締結していたBが法的に労働者と認められるか。
- 出講契約を更新しなかったことが不利益取扱いおよび支配介入に該当するか
- 労働組合活動を理由に契約を更新しなかったか。
- 春期講習を担当させなかったことも不当労働行為に該当するか
- 契約更新拒否と同様の理由による差別的扱い。
- 団体交渉に応じなかったことが団交拒否に該当するか
- 労働組合法7条2号違反の有無。
- 中間収入を控除しないバックペイ命令が裁量逸脱で適法性を欠くか
- 救済措置としての適切性。
判決のポイント
裁判所は以下の観点で判断しました:
- Bの労働者性
- 労働条件や業務内容の決定権が甲法人にあり、Bは労働組合法上の労働者に該当すると認定。
- 独立事業者としての実態は認められなかった。
- 出講契約の不更新と春期講習担当拒否
- 甲法人が組合活動を嫌悪して行った行為であり、不当労働行為に該当。
- 団体交渉拒否
- A組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、労働組合法違反と判断。
- バックペイ命令の適法性
- Bが再就職後も収入が不安定であり、不当労働行為の影響が大きいことから、中間収入控除なしのバックペイ命令は合理的と判断。
本件の意義
この事件は、労働組合法上の労働者性判断基準や、不当労働行為に対する救済措置の合理性について重要な示唆を与えます。特に、“業務委託契約であっても労働者性が認められる場合”や、“不当労働行為の影響を考慮した救済措置”の考え方は、今後の実務にも応用可能です。
おわりに
労働組合法や不当労働行為に関する問題は複雑ですが、今回の判決は組合活動を守るための重要な判断基準を示しています。企業や労働者がこのような問題を予防し、適切に対応することが求められます。
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。
単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
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