2025年度の入社祝い金の規制強化について
2025年の実施を目の前にし、人事・労務関連の多くの法改正の中でも「入社祝い金」や「就職お祝い金」に関する規制強化が大きな注目を集めています。この規制が何故必要とされるのか、その内容と今後の影響について詳しく解説します。
何故「入社祝い金」は規制強化されるのか?
「入社祝い金」とは、企業が採用活動の一環として新入社員に対して支給する金銭的な特典のことです。求人市場でこのようなインセンティブが使用される背景には、特定職種の人手不足や競争激化が挙げられます。しかし、この制度には以下のような問題点があり、規制強化の必要性が議論されてきました。
- 短期的な採用目的が優先される問題 入社祝い金の提供は、企業が短期間での採用を促進する手段として用いられることが多く、長期的な雇用維持に繋がりにくいという懸念があります。短期間で退職するケースが増加し、労働者と企業の双方にとって非効率的な状況を招いています。
- 労働市場の歪み 特定の業種や地域で過剰な入社祝い金の提供が行われることで、他の業種や地域との労働市場における不均衡が生じる可能性があります。これにより、必要な人材が他の分野に流出するリスクが高まります。
- 誤解を招く求人広告の問題 求人広告で入社祝い金の金額を強調することで、労働条件の本質的な部分が曖昧になるケースが見受けられます。例えば、賃金や労働環境が十分に明示されていない場合、求職者がミスマッチな企業に就職するリスクが高まります。
令和3年4月1日における職業安定法の改正
今回の2025年の規制強化に先駆け、実は令和3年4月1日にも職業安定法に基づく指針〔第6の9関係〕が一部改正され、「就職お祝い金」などの名目で求職者に金銭等を提供し、求職の申し込みを勧奨する行為が禁止されました。この改正は、次のような背景と目的を持って実施されました。
- 過剰な勧誘の抑制 求職者に対して高額な金銭提供をちらつかせることで、不適切な方法で就職を誘導する事例が問題視されていました。これにより、求職者が冷静な判断を行うことが妨げられる状況が生まれていました。
- 求職者保護の強化 求職者が本来の労働条件や職場環境に関する重要な情報よりも、「お祝い金」といった短期的な利益に惑わされてしまうリスクを減らすことを目的としています。
詳細な改正内容については、以下の厚生労働省の資料をご参照ください。
令和3年の改正後も一定の成果が見られましたが、依然として類似の手法が散見されることから、2025年にはさらなる規制強化が実施される運びとなりました。
規制強化の具体的な内容
2025年の規制強化では、以下のようなポイントが盛り込まれています。
- 求人広告での表示規制 入社祝い金の金額や条件を過剰に強調する広告が規制対象となります。例えば、「高額入社祝い金」といった表現が使用される場合、その金額の支給条件を明確に示す必要があります。
- 支給条件の透明性の確保 入社祝い金を支給する際には、その条件や支給タイミングを求職者に事前に明確に説明する義務が課されます。不明瞭な条件や誤解を招く記載があった場合、行政指導や罰則の対象となります。
- 過剰な金額設定の抑制 労働市場全体のバランスを保つため、特定業種や地域での過度な金額設定が行われないよう規制が設けられます。
規制強化の影響と展望
今回の規制強化により、企業と求職者の双方に以下のような影響が予想されます。
- 企業への影響
- 求人広告の内容を見直す必要があり、特に中小企業では採用活動の戦略を再考する必要が出てきます。
- 短期的な採用目的から、長期的な人材育成や雇用維持を重視する方針への転換が求められます。
- 求職者への影響
- 求職者は入社祝い金の有無だけでなく、企業の労働条件や職場環境をより正確に把握できるようになります。
- 結果として、ミスマッチの少ない就職が可能になることが期待されます。
- 労働市場全体への影響
- 不均衡な採用競争が抑制され、地域や業種間でのバランスが改善される可能性があります。
- 長期的には、労働者の定着率が向上し、安定した労働市場の形成が期待されます。
まとめ
2025年の入社祝い金に関する規制強化は、短期的な採用競争の是正と労働市場の安定化を目指したものです。この規制は、企業と求職者が相互にメリットを得られる雇用環境を整えるための重要な一歩といえます。企業はこの変化を前向きに捉え、長期的な視点で採用活動や人材育成に取り組むことが求められます。一方、求職者も企業の提供する条件を冷静に判断し、自身に適した就職先を選ぶ意識を高めることが重要です。
今後も労働市場の動向に注目しながら、より良い雇用環境の実現を目指していきましょう。
執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。
単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
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