1年単位の変形労働時間制と振替休日との併用は可能であるのか??


はじめに

1年単位の変形労働時間制を検討する際、振替休日と併用できないことがよく話題に上ります。振替休日は通常、休日に出勤した場合の代わりとして別の日に休むための制度ですが、1年単位の変形労働時間制ではどのように取り扱われるのでしょうか?この記事では、その理由と背景について詳しく解説します。


1. 1年単位の変形労働時間制とは?

1年単位の変形労働時間制は、1年間を通じて労働時間を調整し、繁忙期と閑散期に合わせて労働時間を柔軟に設定できる制度です。これにより、法定労働時間内での勤務時間の調整が可能となります。


2. 振替休日とは?

振替休日は、あらかじめ予定された休日に出勤した場合、その代わりに別の日を休日として設定する制度です。振替休日を取得することで、法定労働時間の超過を防ぎつつ、労働者に休息を提供することが可能です。

振替休日の主なポイント:

  • 出勤前に振替日を決定しておく必要があります。
  • 休日出勤と異なり、割増賃金の対象にはなりません。

3. 1年単位の変形労働時間制で振替休日を使用できない理由

1年単位の変形労働時間制と振替休日の併用が認められないのには、いくつかの理由があります。それぞれの制度が持つ目的と役割の違いが背景にあります。

変形労働時間制の趣旨と矛盾

  • 変形労働時間制は、あらかじめ年間の労働時間を計画的に配分し、特定の期間に労働時間を集中させることを目的としています。これは労使が同意したがゆえに、原則の時間ではなく変動できると考えられます。すなわちガバナンス上の正当性を付与するしたうえでシフトを組みので、を業務の繁閑に応じて任意に変更することは制度として想定されておらず、認められてもいません
  • 振替休日は突発的な出勤に対応するためのもの。

    このことより制度が矛盾し合って、併用することができないと解されます。
    参照:大阪労働局 QA https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/jikan.html

すなわち、1年単位の変形労働時間制を導入している場合、原則振替休日を使用することはできません。


しかし、例外もございます。労働日の特定時に予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合には、

1.就業規則で休日の振替がある旨規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替えること
2.対象期間(特定期間を除く)において、連続労働日数が6日以内となること
3.特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内にあること

をクリアしていれば、振替休日を使用することが可能です。

また、例えば、同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであり、労働基準法第32条の4第1項に照らし、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働とすることが必要です。

振替休日の時効は、基本的に「その振替休日を取得できる権利」が発生した日から2年です。これは、労働基準法第115条に基づいており、未払い賃金などと同様に、振替休日の取得権も2年の時効が適用されます。この考えより、振替出勤を重ねて、振替休日を貯めるというような運用をされている企業もありますが、1年単位の変形労働時間制を導入している場合これはできない と解されます。


4. 振替休日が使えない場合の代替手段

1年単位の変形労働時間制において、振替休日が使えない場合でも、他の方法で労働時間を調整し、労働者の休息を確保することが可能です。

代休の利用

  • 休日出勤が発生した場合、振替休日の代わりに「代休」を利用することが考えられます。代休を取得することで、労働者に休息を与えつつ、休日出勤の負担を軽減できます。

年次有給休暇の活用

  • 繁忙期に休日出勤が増えた場合、閑散期に年次有給休暇を積極的に取得させることで、労働者の疲労を軽減することができます。

シフト制による調整

  • シフトを細かく調整することで、繁忙期に勤務時間を増やしつつ、後に休息を取る時間を確保することも効果的です。

5. まとめ

1年単位の変形労働時間制では、振替休日を使用できないという制約がありますが、その背景には労働時間の管理や制度の趣旨を守るための理由が存在します。企業がこの制度を正しく理解し、労働者の休息を確保するための他の手段を検討することで、より効果的に働きやすい環境を整えることができるでしょう。


おわりに

1年単位の変形労働時間制を導入する際、振替休日を併用できないことを理解しておくことは重要です。制度のメリットを最大限に活かし、労働者の健康と業務効率を両立するために、適切な労働時間管理と休暇制度の活用を心がけましょう。

執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル 

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。

単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等もあり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようお願いします。

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