IT人材育成とシナジーのある助成金(人材開発支援助成金)

デジタル人材の育成などの人材育成を支援

DX化のニーズが加速度的に上がっており、それと比例し「リスキリング」のニーズも高まっております。経済産業省ではリスキリングを以下のように定義しています。

「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること」

従業員に企業内のDX化進めるうえで必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせることは、企業の重要課題のひとつと言えます。また、従業員本人にとってもDX化に関する

知識及び技能の習得は職業生活の安定につながります。このように、従業員にとっても、経営者にとっても「DXに関するリスキリング」のニーズは高いと言えます。

このようなニーズを満たす助成金として人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」は令和4年~8年度の期間限定の助成金として創設されました。

新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する労働者に対して新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための一定訓練に係る経費の一部が助成される助成金であり、人材開発支援助成金のコースの中でも助成率が高いことが特徴です。

中小企業事業者であれば原則費用の75%が助成される他の教育に関する助成金より高い助成率が特徴の助成金であり、国のリスキリングへの姿勢が垣間見えるものとなっています。

今回は、DX人材の育成のために人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」を活用する際に気を付けるポイントを解説していきたいと思います。

※「事業展開等リスキリング支援コース」では以下の①~③に関する一定の訓練が助成対象となり得ますが、今回のは②、かつ社内向けのDX人材教育にフォーカスを当てます。

①事業展開

新たな製品を製造し又は新たな商品もしくはサービスを提供すること等により、新たな分野に進出すること。このほか、事業や業種を転換することや、既存事業の中で製品又は商品若しくはサービスの製造方法又は提供方法を変更する場合も事業展開にあたる

②「デジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)」

ビジネス環境の激しい変化に対応し、デジタル技術を活用して、業務の効率化を図ることや、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

③グリーン・カーボンニュートラル化

徹底した省エネ、再生可能エネルギーの活用等により、CO2等の温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすること。
▶例:農薬の散布に使うトラクターに代わってドローンを導入しCO2削減を実施するためドローンスクールに通わせる。
風力発電機や太陽光パネルなどの環境に配慮した電力供給システムを構築するためエンジニア育成講座を受講させる 等

対象となる講座とは?

OFF-JT(座学講座)

①1コースの実訓練時間数が10時間以上のOFF-JT(座学講座)であること

(※eラーニングによる訓練等及び通信制による訓練等については、標準学習時間が10時間以上または標準学習期間が1か月以上であること。)

②事業主において企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識及び技能の習得をさせるための訓練

(※ビジネス環境の激しい変化に対応し、デジタル技術を活用して、業務の効率化を図ることや、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立するOFF-JT講座またはeラーニングによる訓練等及び通信制による訓 であること

▶対象となる講座の具体例

・営業部門において、ITツールを活用したWEB集客のノウハウの習得させるための講座を受講させる

・建設現場において、3次元設計などのICT技術の習得させるための講座を受講させる 

・先端技術(IoTや画像AI)を活用した安全監視のためのシステムを新たに立ち上げのためのAI技術の基礎および応用教育。

▶対象とならない講座:通常の事業活動として遂行されるものを目的とするもの(以下の具体例)

・コンサルタントによる経営改善の指導

・自社の業務で用いる機器・端末等の操作説明

・自社製品及び自社が扱う製品やサービス等の説明 等

事業場内訓練と事業者外訓練

・事業場訓練

自社で企画・主催・運営する訓練計画により、社外より招へいする部外講師または自社従業員である部内講師により行われる訓練等のことを言います。ただし、部外講師及び部内講師が一定の経験などの要件を満たした者でなければなりません。

1社向けに個別にカスタマイズし、対象の企業向けに作られた訓練であれば仮に社外で実施しても、事業場内訓練となります。

・事業場訓練

社外の教育訓練機関に受講料を支払い受講させる訓練等のことを言います。ここで気を付けたいのが、特定の事業主に対して提供することを目的として開発された講座は「事業場外訓練」とはならないということです。

事業場内訓練は職業訓練やセミナーのイメージです。複数社に対し募集が行われ、講習会社の設備にて行われる必要があります。

※この事業場内訓練と事業場外訓練により、経費項目・経費事の上限額が大きく異なります。

講座類型

デジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)の講座を受講させる場合、以下の類型に合致している必要があります。

①ビジネスアーキテクト関係…デジタル技術を理解して、ビジネスの現場においてデジタル技術の導入を行う全体設計ができる人材の育成を目的とした訓練

②データサイエンティスト関係…統計等の知識を元に、AIを活用してビッグデータから新たな知見を引き出し、価値を創造する人材の育成を目的とした訓練

③エンジニア・オペレータ関係…クラウド等のデジタル技術を理解し、業務ニーズに合わせて必要なITシステムの実装やそれを支える基盤の安定稼働を実現する人材の育成を目的                とした訓練(ベンダー企業においてシステムエンジニアを対象に実施する訓練を含む。)

④サイバーセキュリティスペシャリスト関係…業務プロセスを支えるITシステムをサイバー攻撃の脅威から守るセキュリティ専門人材の育成を目的とした訓練

⑤UI/UXデザイナー関係…顧客との接点に必要な機能とデザインを検討し、システムのユーザー向け設計を担う人材の育成を目的とした訓練

⑥その他のデジタル人材関係…上記に区分されないデジタル人材(DXリテラシーを除く。)の育成を目的とした訓練

助成金額

助成額・助成率は次の表のとおりです

助成金率/賃金助成

経費助成/率    賃金助成
(1人1時間当たり)
75%
(60%)
960円
(480円)
( )内は中小企業以外の助成額・助成率

助成上限

・1人1訓練当たりのOFF-JTにかかる経費助成の限度額は、実訓練時間数に応じて下表のとおりです。

企業規模10時間以上
100時間未満
100時間以上
200時間未満
200時間以上
中小企業事業主 30万円 40万円50万円
中小企業以外の事業主20万円25万円30万円
※ eラーニング及び通信制による訓練等(標準学習時間が定められているものは除く。)については、
一律「10時間以上100時間未満」の区分となります。
※ 定額制サービスによる訓練の場合は、訓練時間数に応じた限度額は設けません。

賃金助成限度額(1人1訓練当たり)1,200時間が限度時間となります。ただし、専門実践教育訓練については1,600時間が限度時間となります。

訓練等受講回数の制限は助成対象となる訓練等の受講回数の上限は、1労働者につき1年度で3回までです。
1事業所の支給額の制限1事業所が1年度に受給できる助成額は、1億円までとなります。

対象となる経費

対象となる経費は事業内訓練か、事業場外訓練かで変わってきます。また、各経費事に上限があります。

事業場内訓練

事業場内訓練の経費として認められる費用は以下の通りです。

①部外の講師への謝金・手当所得税控除前の金額 (実訓練時間1時間当たり3万円が上限(消費税込み)。



②部外の講師の旅費
勤務先又は自宅から訓練会場までに要した旅費(車代・食費等は含めない。)
※1訓練あたり、原則5万円が上限であり、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、京都府、大阪府及び兵庫県以外に所在する事業所が同道県外から招へいする講師に限ります。

③施設・設備の借上費
教室、実習室、ホテルの研修室等の会場使用料、マイク、OHP、ビデオ、スクリーン等訓練で使用する備品の借料で、助成対象コースのみに使用したことが確認できるもの

④学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書・教材の購入費(※教科書については、頒布を目的としていて発行される出版物のみ)

⑤訓練コースの開発費(学校教育法の大学、高等専門学校、専修学校又は各種学校に職業訓練の訓練コース等を委託して開発した場合に要した費用及び当該訓練コース等の受講に要した費用)

→すなわち事業場内訓練は①の上限額がかなりの足かせとなります。仮に事業場内訓練を10人に受講させたとしても、講座代金としては1時間当たり3万円上限という制約がかかりますので、申請する際には注意が必要となります。

事業場外訓練

受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等、あらかじめ受講案内等で定めているもの(定額制サービスによる訓練の場合は、基本利用料に加え、初期設定費用や
アカウント料等の教育訓練に直接要するオプション料金も対象)
国や都道府県から補助金を受けている施設が行う訓練の受講料や受講生の旅費等は対象外です。

手続き

訓練実施1カ月前には訓練計画の作成・提出する必要があるので、計画的に進めるようにしなければなりません。

引用:厚生労働省人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)のご案内(詳細版) https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001113346.pdf


①社内の職業能力開発推進者の選任および社内の事業内職業能力開発計画の策定

人材開発支援助成金では、従業員の計画的な職業能力開発に取り組む事業主等を支援するため、「職業能力開発推進者」の選任と「事業内職業能力開発計画」の策定・周知をている事業主を対象としていますので、職業訓練実施計画届の提出までに選任・策定(※)・従業員への周知を行っていることが必要です。
※選任・策定後の内容の変更に係る届出等は不要です。

②訓練計画の作成・提出(事業内職業能力開発計画の有無)

訓練開始日から起算して1か月前までに「職業訓練実施計画届」を各都道府県労働局へ提出します。

③訓練の実施等

部内・部外講師によって行われる事業内訓練を実施、または、教育訓練施設で実施される事業外訓練を受講させます。

④支給申請書の提出

訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に支給申請書と必要な書類を労働局に提出します。

⑤助成金の支給決定または不支給決定

支給審査の上、支給・不支給を決定し、採択されれば助成金が振り込まれます。

事業内職業能力開発計画を有効活用しましょう

本助成金がキックオフしたばかりであり、まだまだ前例がなく助成金対象となるかどうかなどの判断が難しいと言えます。また、受講開始前1カ月前には計画の作成し、労働局へ提供する必要があります。

また、事業内職業能力開発計画は力量マップの作成、会社の教育計画、個人のキャリア開発を複合的に行う必要があります。正しく実施することで従業員の職業能力開発について、企業の経営者や管理者と従業員が共通の認識を持ち、目標に向かってこれを進めることで効果的な職業能力開発を行うことが可能になり、さらに、従業員の自発的な学習・訓練の取組意欲が高まることも期待されます。

外形的な要件のみを満たそうとして、助成金のみの受給を目指すのでは、法意にも反し、不支給決定の可能性を高めてしまいます。

法意を汲み、実効性を持たせ、計画立案から訓練実施までの効果を最大限高めるためにも、専門家(社会保険労務士等)を頼ることをお勧めします。

執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル 

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。

単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようお願いします。

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