健康経営とメンタルヘルスケア(4つのケア)

労働者を取り巻く、ストレスフル社会

昨今、産業構造の変化や複雑化等の原因により仕事や職業生活に強い不安や悩み、ストレスを感じている労働者の割合が増えてきております。

労働安全衛生法(第6条)に基づき、労働災害の防止に関し基本となる目標、重点課題等を厚生労働大臣が定める5か年計画である労災防止計画の第14次(令和5年4月1日~令和

10年3月31日までの5か年計画)でまとめられている統計を見てみますと「仕事で強い不安やストレスを感じる労働者」の割合は、約5割となっております。

また、業務による心理的負荷を原因とした精神障害等の労災補償給付は増えてきており、精神障害等の労災認定件数は、令和3年度に過去最高となりました。

引用:第14次労働災害防止計画の概要(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116306.pdf

このような統計データを見ておりますと、労働者の働きやすい環境づくりやメンタルヘルスケアの体制構築が進んでいるとは言い難い状況と言わざるを得ません。

特に小さい規模の事業場ほど、メンタルヘルス対策が低調といった状況が続いており、ノウハウや専門人材の不足が理由として挙げられます。

引用:第14次労働災害防止計画の概要(厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116306.pdf

健康経営とメンタルヘルス

メンタルヘルスケアを1つのディフェンシブにとらえるのではなく、戦略的な施策としての「健康経営」の1部としてとらえるとメンタルヘルスの取組みが進むかもしれません。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。 企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。

メンタルヘルスケアだけを切り出して、単発的に行おうとするとなかなか進まないのが現実だと思います。しかし健康経営の1部として見て場合はどうでしょうか?

健康経営では病気や不調を防ぐ衛生的な手法を超えて、キャリア開発等を用いた人材活用により生産性向上や組織の活性化まで視野に入れた取り組みを一貫して行うことが求めら

れます。もちろん人材開発・組織開発と労働安全衛生は表裏一体ですが、従業員目線で細分化すると

・「人材開発・組織開発」で各個人の特性や能力、キャリアデザインに沿った働き方に近づけるために用いられる「ポジティブな手法」
・「労働安全衛生」ケガを防ぐ仕組みづくりや、不調等を感知し病気を防いでいくための「ネガティブな要因を予防、防止するための手法」   

と考えることができます。

労働安全衛生の土台を固め、労働者のケガや病気を防ぐ取り組みは健康経営の土台であり、労働者の働きやすい環境づくりは企業利益にもつながるという「投資的」な特徴をもつ

ということを意識して行うと労使が同じ方向を向くことができる実効性のある取り組みにすることができるものと考えられます。

メンタルヘルスケアの進め方

厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針、平成18年3月策定、平成 27 年 11 月 30 日改正)を定め、具体的なメンタルヘルスケアの進

め方を提示しております。原則的にはこの進め方に沿って進めることで、法的な義務の実効性や医学的観点より、メンタルヘルスを有効的に実施することができます。

職場におけるメンタルヘルス対策は、3本の柱から成ると考えられております。具体的には以下のとおりです。
(一次予防) メンタルヘルス不調の未然防止
(二次予防) メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応
(三次予防) 職場復帰支援

※ストレスチェック制度は、ストレスの状態を把握することでメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的としており、一次予防のための仕組みと位置づけられます。

引用:職場におけるメンタルヘルス対策について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000188314.pdf

メンタルヘルスは一次~三次予防までが円滑に行われる必要があり、そのためにも心の健康作り計画を策定し、仕組化していくことが求められています。

事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、労働者と使用者が十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」やストレスチェック制

度の実施方法等に関する規程を策定する必要があります。また、その実施に当たってはストレスチェック制度※の活用や職場環境等の改善を通じて、メンタルヘルス不調を未然に

防止する「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰を支援等を行う「三次予防」が円

滑に行われるようにする必要があり、これらの取組みにおいては教育研修・情報提供を行い、「4 つのケア」を効果的に推進し、職場環境等の改善、メンタルヘルス不調への対

応、休業者の職場復帰のための支援等が円滑に行われるようにする必要があります。

4つのケア

メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要です。それぞれどのような取り組みが必要か見ていきましょう。

・セルフケア

「セルフケア」は、自分自身で行うことのできるケアのことであり、働く人が自らのストレスに気付き、予防対処し、また事業者はそれを支援することを言います

こころもからだも良好な状態を保ち続けるために、定期的に自分の状態に意識を向け、必要なケアをしてあげることは極めて重要です。会社としては、労働者が自分の状態に意識

を向けられるきっかけを作ることが求められます。例えば、厚生労働省の「こころの耳(https://kokoro.mhlw.go.jp/worker/)」では、自身の疲労度をセルフチェック出来た

り、こころの整える方等を紹介しているため、労働者への周知活用を呼び掛けることは有効と言えます。ご活用ください。

・ラインによるケア

「ラインによるケア」は、管理監督者が行うケアのことです。日頃の職場環境の把握と改善、部下の相談対応を行うことなどを言います。ラインによるケアにおいて重要なのは

労働者(部下)が安心して話せる環境づくり、すなわち心理的安全性の確保が必要となります。心理的安全性とは、懲罰や害(無言の圧力等も含む)等の不安が無い状態で、本心

を安心して話せる状態のことを言います。この心理的安全性および心理的安全性を作っていく手法「アサーション」についてはまた別のコラムでまとめる予定です。

・事業場内産業保健スタッフ等によるケア

「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」は、企業の産業医、保健師や人事労務管理スタッフが行うケアのことを言います。労働者や管理監督者等の支援や、具体的なメンタル

ヘルス対策の企画立案を行うことなど、メンタルヘルスケアの業務の主幹している部署の人等によるサポートが該当となります。個別具体的なサポートも重要となりますが、

会社全体の仕組化の推進を行うのもこの層の方々となります。すなわち4つのケアを継続的かつ計画的に行っていくにあたっての中心メンバーということとなります。

・事業場外資源によるケア

事業場が抱える問題や求めるサービスに応じて、病院や独立行政法人等のメンタルヘルスケアに関し専門的な知識を有する各種の事業場外資源を活用することをいいます。

労働者が相談内容等を事業場に知られることを望まないような場合にも、事業場外資源を活用することが効果的です。

また、専門的知識やノウハウがなくメンタルヘルスケアが進んでいない事業所の全体的な計画や運営等も相談することができます。

外部資源を活用してみましょう

メンタルヘルスケアを有益なものとし、継続的に続けていくためにも専門的知識を有する外部資源を活用することをお勧めします。特に各都道府県に設置されている産業保健総合

支援センターおよび地域産業保健センター(全国約350か所)は厚生労働省管轄の独立行政法人労働者健康安全機構が設置した専門機関です(通称さんぽセンターと呼ばれており

ます。)産業保健総合支援センター https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx

個別訪問による産業保健指導の実施やメンタル不調の労働者に対する相談・指導等のサービスを行っており、原則無料でご利用いただけます。

※同じ事業場または、労働者が2回以上利用できない場合等一定の制約がございますので、必ず各さんぽセンターのホームページでご確認ください。

4つのケアを俯瞰しながら、メンタルヘルスケア全体をコーディネートできる「労働衛生コンサルタント」や「社会保険労務士」等の専門家に入ってもらい計画立案を行うことも

有効です。進め方を迷われている事業所は是非外部資源を活用することをご検討ください。

執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル 

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。

単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようお願いします。

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