フリーランスの労働者性(フリーランス・事業者間取引適正化等法の施行に向けて)

 

フリーランスを取り巻く環境

昨今、労働流動性が高まり個人事業主として働く人が増えてきております。働く人にとっては自分の個性や特技を活かすことができ、都合の良い時間に働くことができ、

企業も部分的に業務を依頼できること等のメリットが挙げられます。

デザイナー、ライター、経験・知識を活かしたコンサルタント等の専門性の高いものから、ウーバーイーツや事務作業代行等の業務もフリーランスの活躍する仕事です。

フリーランスの形態は働く人にも企業にもメリットはありますが、その特性を正しく理解していないがゆえに適切に運用できていないケースもしばしば見受けられます。

・実態としては雇用にもかかわらず、単に社会保険労務料や雇用時における事務工数の削減ために契約のみ業務委託としている。

・企業が立場の優位性よりフリーランスを過度に拘束する、ハラスメントをする、報酬を支払わない、契約後料金を値下げする。

このような背景があり、令和5年2月24日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス・事業者間取引適正化等法」といいます。)

が第211回国会に提出され、4月28日に可決成立し、5月12日に公布されました。

その中身は企業(従業員を雇用する個人事業主も含む)がフリーランスに対して行わなければならない義務がまとめられています。

例えば、フリーランスの就業環境の整備として下記の事項等について実施義務が課せられます。

・書面等による取引条件の明示

フリーランスが育児介護等と両立して業務委託に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと。

継続的業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告しなければならないこと

等が挙げら、内容から鑑みるに労働基準法等の労働法を参照とし、フリーランスを保護する制約が課せられることとなります。

またこの法律は違反した場合等に行政官庁の指導、勧告、場合によっては罰則のある法律になるので、事業主は対応が必要不可欠となります。

※公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、特定業務委託事業者等に対し、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとし、命令違反及び検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処することができます。

この法律は2024(令和6)年秋ごろまでの施行を予定しておりますので、フリーランスを活用している企業はそこまでに体制を整える必要があります。

具体的手続きや対応方法などの詳細は省令、政令等で決定されていきますので詳細がわかり次第、別コラムでまとめていきます。

今回は、そもそもこの法律の対象となるフリーランスとはどのような者なのか?労働者との違いは何なのかを解説していきたいと思います。フリーランスを正しく理解し、正しく

運用をしていくようにしましょう。

フリーランスとは?

フリーランスとはフリーランス・事業者間取引適正化等法上では「業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの」と定義されております。

一般的にフリーランスと呼ばれる方には、「従業員を使用している」「消費者を相手に取引をしている」といった方も含まれますが、この法律における「フリーランス」には該当

しませんこの法律では※特定業務委託事業者との業務委託契約にて役務提供等を行う「フリーランス」が該当となります。すなわち1人で仕事を請け負う、カメラマン、デザイ

ナー、事務代行等が企業または人を雇用する個人事業主から仕事を受けるときにこの法律は適用となります。

特定業務委託事業者:フリーランスに業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものを言います。

役務提供とは

役務提供とは役務の提供とは知識や技術、サービスの提供のことを指し、契約類型は主に4つに分類され、フリーランスは業務委託で役務提供を行う人のことを指します。

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※役務提供契約には、上記以外にも寄託、商法上の仲立、問屋、運送などのための契約等もありますが、今回は割愛します。

・雇用契約

企業に所属するという形態であり、派遣契約を除いて、事業者に指揮命令権がある唯一の契約となります。正社員、パート・アルバイトなどで働く場合はこの類型に該当します。

指揮命令権とは使用者が労働者に対し業務に対し業務の進め方や方法などを具体的に指示できる権利あり、雇用契約のみに発生します。

その唯一の例外が「労働者派遣」であり雇用契約および労働者派遣以外(委託契約)で指揮命令を行ったら、職業安定法・派遣法違反となります。

このような状態を「偽装請負」または「偽装フリーランス」と呼びます。

・請負契約

請負契約とは業務を外部に委託する際の契約(業務委託契約)形態の一つであり、当事者の一方(請負人)がある仕事の完成を約束し、相手方(注文者)がその対価として報酬を支払うことを約束する契約です。報酬は成果物に支払われます。

・(準)委任契約

(準)委任契約では、請負契約のように完成した成果物に対して報酬を受け取るのではなく、一定の事務処理行為を行うことを約する契約です。

例えば、SES契約(システムエンジニアリングサービス契約)ではエンジニアの稼働時間に応じた報酬を支払うと定める契約ですが、この場合は準委任契約となります。

本質的には本来なら自身がやるべきことを、その専門性を活かして代行するという契約であるため、当然、業務の進め方や方法を指示することができません。

※業務が法律行為であれば「委任契約」と言い、法律行為以外の場合は「準委任契約」と言います。

フリーランスでも「労働法」の適用を受ける場合がある。偽装フリーランスに気を付けましょう。

労働基準法や労働契約法、労働組合法などで対象の労働者の定義は異なってきますが、形式上フリーランス(請負契約または(準)委任契約)として契約を結んでいたとしても

各法律の「労働者」に該当すると判断される場合があります。

労働基準法上の判断基準

労働基準法では、契約の類型に寄らず「使用従属関係」が認められるかどうかで判断されます。また、判断は個々人の働き方の実態により判断されます。

(引用:基発0331第52号、年管発0331第5号、令和5年3月31日参照:https://www.mhlw.go.jp/web/t_img?img=395140)

この使用従属関係が認められるかどうかの判断は下記①~⑧の各要素を総合的に考慮し、実態に即して判断されます。

①仕事の依頼、業務の指示等に対する諾否の自由の有無
②業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無
③勤務場所・時間についての指定・管理の有無
④労務提供の代替可能性の有無(その人でないといけない理由があるか無いか)
⑤報酬の労働対償性
⑥事業者性の有無(機械や器具の所有や負担関係や報酬の額など)
⑦専属性の程度
⑧公租公課の負担(源泉徴収や社会保険料の控除の有無)

(労働省労働基準局編『労働基準法の問題点と対策の方向』(日本労働協会、1986年)参照)

もし、労働基準監督署の調査で「偽装フリーランス」が認定されますと、割増賃金等の支払い指導のみならず「社会保険・労働保険」が遡及徴収されます。

また対象者に対する労働時間の把握義務、健康診断を受診させなければならない等、労働契約に付随する義務も発生してきます。

フリーランスカメラマンが労働基準法上の労働者と認められた実例

形式上フリーランス(業務委託契約)で働いていたカメラマンが、実態としては労働基準法上の労働者として認められた事例を紹介します。 

【概 要】

映画プロダクションB社と委託契約でカメラマンとして働いていたAさんが映画撮影中の早朝宿泊していた旅館で倒れ、脳梗塞で死亡した事件です。

Aさんのご子息は「労災保険の給付」が受けられると考え、新宿労働基準監督署へ労災保険の請求を行いましたが、新宿労働基準監督署長はAさんは業務委託契約のため

労働基準法上「労働者」でないから労災保険は出さないと判断しました。

Aさんのご子息は労災保険を出さないとした判断を不服とし、その取消しを求めて裁判を起こしました。

【Aさんの業務内容】

・映画製作においては、Aさんは、監督のイメージを把握して、自己の技量や感性に基づき、映像を具体化することを行っていた。

・映画製作に関して最終的な責任は監督が負うこととなっていたため、レンズの選択、カメラのポジション、サイズ、アングル、被写体の写り方及び撮影方法等については、

 いずれも監督の指示の下で行われいた。

・撮影したフィルムの中からのカットの採否やフィルムの編集を最終的に決定するのも監督であった

【裁判所判断】

以下のことを総合的に判断し、契約こそ業務委託契約だが、Aさんは労働基準法の労働者にあたると判断されました。

・本件映画に関しての最終的な決定権限は監督にあったというべきであり、Aさんと監督との間には指揮監督関係があり、監督の指示に従う義務があったと言える。

・報酬も労務提供期間を基準にして算定して支払われている

・個々の仕事についての受けないの自由が制約されていること

・時間的・場所的拘束性が高いこと

・労務提供の代替可能性の有無(他のカメラマンではなく、Aさんでなければならない理由がある。)

参照:公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会:新宿労働基準監督署長(映画撮影技師)事件https://www.zenkiren.com/Portals/0/html/jinji/hannrei/shoshi/07989.html

他の労働法上の判断基準

ここまでは労働基準法上の労働者について説明してきましたが、他の法律も簡単に触れておきたいと思います。

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例えば労働組合法では、労働者の範囲が広いと言われております。少し前ではありますが、2004年に労働組合・日本プロ野球選手会がはじめてストライキを実施しました。

プロ野球選手は一人一人が個人事業主であり、契約類型上はフリーランスという位置づけになり、労働基準法上の労働者に当たらないとするのが通説です。

(※通説と記述しましたのは判例や通達等の明確かつ具体的な根拠が見つけられないため、法理としては労働基準法上の労働者に該当しないとは言い切れないと思えますが、運用上はフリーランスとなっているためです。)

しかし、労働組合法上は労働者とされております。このように法律によって「労働者」か否かの判断基準が異なり、外形的な契約類型によるものではないということがわかります。

情報の整理が重要

任せている業務内容や、フリーランスの力量等を鑑みて、本当に「労働者」にならないかどうかの判断が必要となってきます。特にフリーランス・事業者間取引適正化等法が施行され、フリーランスとして安心して働ける環境づくりのため、フリーランスは労働者ではなく「フリーランス」として適正に運用することが求められております。

そのためには、法理を理解しつつ、労働者に任せるべき業務範囲とフリーランス任せられる業務範囲の区分けが重要と言えます。

また、フリーランスに委託する「事務代行」は各士業法により制約を課せられている場合があるため気を付けてる必要があります。

例えば、社会保険の代行をフリーランスに委託することは社会保険労務士法により禁止されております。その他、税理士法により税務手続き、行政書士法により市役所や行政手続きの代行は禁止されています。

どの業務をどの契約類型に任せるべきか、情報整理にお困りの場合は弁護士、社会保険労務士、中小企業診断士等の専門家にご相談することをお勧めします。

執筆者

社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル 

代表 社会保険労務士 川合 勇次

大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。

※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典を必ずご確認いただきますようお願いします。

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