退職金制度の考察(新規で退職金を入れるべきかどうか?)
退職金制度を入れるべきか?
退職金制度を導入するかどうかは経営者の自由です。
まず前提として、企業に対し、退職金制度の導入を義務付けている法律はありませんので、退職金制度を導入するかどうかは経営者次第となります。
では、退職金制度をわざわざ導入する必要はないんじゃないのか?と思われた方、お待ちください。
退職金制度は従業員に「安心感」を与え、「仕事に対してのモチベーションアップ」「退職防止」につなげることを目的としております。
また、退職金制度はかなりポピュラーな制度なので「採用力」にも影響することが考えられます。
すなわち、採用戦略、人材開発、人材活用の施策の1つということになり、義務はないですが、導入する意味合いは十分にある場合がございます。
退職金の歴史
退職金は日本の「年功序列終身雇用制」に合わせて、定年退職後の生活保障として機能しておりました。
退職金は終身雇用においては「老後の生活保障」の機能をを果たすことで、従業員が定年まで所属企業にフルコミットして働くことへの安心感を下支えしておりました。
また、上記のようなスキームの普及は、雇用が安定させるので国にとってもメリットがありました。
そのため、退職金積み立ての税制優遇を支援し、制度普及を促進したため、ここまでポピュラーな制度になりました。
※これは一つの通説であり、他にも諸説ごさいます。
統計上の数字で見る退職金制度
平成30年に厚生労働省が実施した「就労条件総合調査」によると退職金制度があると回答した企業は「80.5%」でした。正直な感想としては「多い」と感じました。また、
「年金」より「一時金」を選択する企業が増えており、年金の管理の煩雑さを鑑みて一時金を選択しているものと思われます。
★調査結果★
・退職金一時金がある企業:平成25年調査 88.4% ⇒ 平成30年調査 90.2%
・退職年金がある企業:平成25年調査 34.2% ⇒ 平成30年調査 29.1%
【母集団】
・日本標準産業分類(平成 25 年 10 月改定)に基づく 16 大産業に該当する企業
・事業所母集団データベースにある常用労働者 30 人以上を雇用する民営企業(医療法人、社会福祉法人、 各種協同組合等の会社組織以外の法人を含む)うちから企業規模別に層化して無作為に抽出した約 6,400 社
・調査客体数 6,370 有効回答数 3,697 有効回答率 58.0%
引用厚生労働省: 平成30年就労条件総合調査を加工
※実際の調査には産業別でも調査されているため、興味があれば見ていただければと思います。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/index.html
どの制度を導入すべきなのか?
もし導入するのであれば、選択制の企業型確定拠出年金(DC)をお勧めします。選択制確定拠出年金では、社員自身の判断で拠出することを決定できます。
この制度を導入するには労使合意に基づいて、現行の給与の一定額を社員が確定拠出年金に拠出することが可能な給与体系へ変更をします。なお、選択金は、法律で定められてい
る月の拠出限度額55,000円が原則となります。この制度をお勧めした理由としては労働者自身の自己決定により拠出を決定できるということと、転職や退職後も資産の「移換」
が可能であるため払い損が少なくなるためです。
昨今では人材流動性が高める施策が増えてきており、1社で生涯働き続けることが少なくなっていくものと思われます。長期間勤めることが前提の制度だと、人材流動性のトレン
ドからは外れてしまいます。また、退職金も一種の賃金であり労働者に還元すべきものと言えます。その使い道は会社が一方的に決めるべきではなく、時代背景に沿った形で運用
されるべきだと言えます。
日本はもともと「年功序列終身雇用制」であり、人生のあるべき姿が型として決まっておりました。そのような時代背景に「退職金」はうってつけであり、
老後の生活保障として多分に機能しておりました。しかし、時代は変わりました。労働の流動性は高まり、決まった型にはまるのではなく、自分で人生を選択していくことが求め
られるようになりました。したがって、退職時に生活保障給として機能する「退職金」は「万人受けする制度」ではなくなってきております。
また、どのようにお金(資源)が配分されるかその労働者が決めるべき事項であり、会社から一方的に決めるべきではないと考えるからです。カフェテリアプラン等はこのような
ニーズから流行っている制度です。これからの時代は労働者もマネーリテラシーを高め、自立すべきというのが、トレンドと考えられます。
とは言うものの、労働者のマネーリテラシーの問題も
労働者が自己決定するには「マネーリテラシー」が必要であり、日本全体で考えると「マネーリテラシー」がそこまで高いとは言えません。
例えば、確定拠出年金を選択型で導入したとしてもその金額がどのように影響するかわかっている方はそう多くないと考えられます。
確定拠出年金を選べば、所得税・住民税の社会保険控除の適用を受けます。また、給与所得で受け取らない分「健康保険料」「厚生年金保険料」を下げることはできます。
※将来の厚生年金の受給額が下がってしまうことが懸念事項として挙げられますが、の影響は軽微なので、ほとんどの方は確定拠出年金を選択すべきといえると思います。
受け取り方で税金の取り扱いも異なります。年金では雑所得となり、一時金では退職所得になりますので、課税対象所得の計算方法や税率が異なってきます。
目先の「額面」に惑わされず、税金・社会保険まで理解して、手取り額を理解している労働者の方は少ないと思いますので、会社の方で導くことが必要であると思います。
貴社の目指す姿によって、制度導入をご検討ください。
導入すべきかどうかは貴社がどのような姿を目指されるか次第だと思います。
スペシャリスト集団で「ティール組織」や「フラット型組織」を目指すのでれば、導入は不要だと思います。
選択肢としてDCを検討してもよいかと思いますが、このような組織では自己決定が大切であり、労働者本人が自身で考え、自分で運用するべきです。
逆に、「アンバー組織」や「ピラミッド型」であり、業務にフルコミットしてもらう必要がある組織は、組織に所属することの「安心感」が大切になってきますので、
退職金制度充実は退職防止策として有効といえます。
導入するかどうか、お悩みの方
いろいろ書きましたが、退職制度は貴社の経営戦略の一つであり、一番重要なのは「貴社の理念」や「考え方」です。現状の経済状況や労働市場を考慮することももちろん重要で
すが、理念や考え方を軽視し状況に流されて制度を作ってしまうと、制度が形骸化してしまう恐れがあります。
一度制度を作ってしまうと、労働者に不利益な改定は法律上ハードルが高くなっております。ゆえに制度設計は慎重に行ってください。
お悩みの際には税理士、社会保険労務士、信託銀行等に相談すると良いかもしれません。
執筆者
社会保険労務士法人ユナイテッドグローバル
代表 社会保険労務士 川合 勇次
大手自動車部品メーカーや東証プライム上場食品メーカーで人事・労務部門を経験後、京都府で社会保険労務士法人代表を勤める。企業人事時代は衛生管理者として安全衛生委員会業務にも従事し、その経験を活かして安全衛生コンサルティングサービスも展開。
単なる労務業務のアウトソースだけでなく、RPAやシステム活用することで、各企業の労務業務の作業工数を下げつつ「漏れなく」「ミスなく」「適法に」できる仕組作りを行い、工数削減で生まれた時間を活用した人材開発、要員計画などの戦略人事などを行う一貫した人事コンサルティングを得意としている。
※本記事はあくまで当職の意見にすぎず、行政機関または司法の見解と異なる場合があり得ます。
また誤記・漏れ・ミス等あり得ますので、改正法、現行法やガイドライン原典に必ず当たるようお願いします。